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花占いもゆくえ 59
「 なら、どうして困らせるの? 」
「えっ」
「忠尚さんと出会えて、やっと踏ん切りをつけて前に進もうって思ったのに……」
「だ って、 薫だって、オレのこと好きなんでしょ?」
だったら何の問題が……と思うけれど、薫の顔は怒りのような悲しみのような、そんな微妙な表情をしていた。
「だから、嫌いにさせないで」
「 っ⁉だ な、なんで⁉」
「昨日の言葉を、ずっと考えてたんだ。喜蝶に好きだって、番になりたいって言われて……忠尚さんに出会う前なら、夢じゃないかなって、幸せで死んじゃうんじゃないかなって思っただろうけど」
「遅くないよっ」
薫が忠尚と別れればいい、ただそれだけなのに!
咄嗟に握った手をやんわりと外されて、
「忠尚さんが悲しむのがたまらなく嫌なんだ」
「あいつなんか、か 関係ないだろっ」
「忠尚さんに悲しんで欲しくないし、寂しく思って欲しくないし、がっかりされたくない……嫌われたくない ────それから 」
薫はオレを見ずにガラス窓の方を見て、街の看板を目で追うようなしぐさをした。
言葉を探しているのだと思って、遮ってしまいたかったけれど雰囲気に飲まれて口が動かない。
「 うん、大事にしたいんだ」
「か 」
「 ぁ、愛してるから」
六華のようにその単語を言うのに勇気が必要だったのか、顔を赤くして恥じらうように、だけどはっきりと告げた。
「忠尚さんを、愛してるんだ」
戸惑いながら言った最初言葉とは違うはっきりとした口調に、胸の奥がコトンと音を立てた気がして……ぎゅ と苦しくなった。
薫の言葉に?
薫の表情に?
何にだろう?
納得させられてしまったと、思ってはいけないのにわかってしまって……
「ぃ やだ 」
これが、また薫を困らせるってわかっているのに。
納得してしまったけれど、ここで諦めたら何もかもが終わってしまうと、わかってしまって。
「だから、もうこうやってついて行くのもこれで最後」
薫に拒絶された手が膝の上でぶるりと震えた。
指先から血が無くなって行くようで、体温が急に消え去ってしまったようだ。
嫌だ と、駄々をこねる声が喉に貼り付いて上手く出ない。
「喜蝶のことを嫌いになったわけじゃない、見放したわけでもない、大事なままだし、大切なままだよ」
オレの顔色がよっぽど悪かったのか、こちらに視線を戻した薫がショックを受けたようでさっと眉根が寄った。
一瞬、言葉を言い直そうか迷ったそぶりを見せて、小さく首を振ってからしっかりとオレを見詰めてくる。
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