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花占いのゆくえ 67
「何言ってんの!喜蝶が携帯がないと困るからって届けさせたんでしょ⁉」
「は⁉」
「電話かかってきてたよ?み?みー?なんとかさん?って人から薫に『喜蝶が携帯電話がなくて困ってるから届けて』って」
…………は?
一瞬その伝言を聞いて頭の中が真っ白になった。
「ワガママ言い過ぎだよ!結局学校来るなら薫に届けさせなくてもいいのに!」
「いつから?」
六華の言葉に応えず、短く問い返したオレに怪訝な表情が向く。
「朝からだよ?どうしたの?」
どう言うことなのか理解できず、きょとんと首を傾げたままの六華を見下ろして、先程教えられた言葉を口の中でぶつぶつと繰り返してみる。
それが、薫がベータだと言った時のミナトの姿と重なって……
ぞっと胸の内が冷える。
どうしてミナトは、いないオレの携帯電話を欲しがった?
どうしてミナトは、薫にそれを頼んだ?
小さくて聞き取れなかったはずの言葉が耳の中に蘇って、吸い込んだ息を吐き出すのも忘れて教室を飛び出していた。
────ベータの、癖に
繰り返し繰り返し頭の中で再生して、補完して、……あの時、たぶんミナトはそう呟いていた。
呪いの言霊のような、自身にも向いているそれは、今のこの社会で生きにくいβすべてに向けられているようでもある。
駆け出して、息が切れる。
バスの時間を待ってはいられず、緩やかに続く大学への坂道を一心不乱に駆け上がった。
きっと、ミナトは恨んだんだ。
同じベータなのにオレの告白を断れることに、
ベータなのに忠尚と言う恋人がいることに、
それでもなお、オレが薫を大事だと言ったことに、
オレが、ミナトを好きにならなかったことに!
オレじゃなく、きっと薫を……
草に隠れそうな階段を駆け上がり、この大学でミナトのいそうな場所はそこしか思い浮かばなかった。
ガラクタの積み上げられた廊下を駆け、黒ずんだ白い壁にぶつかりながら愛想も何もない扉を破るようにして飛び込んだ。
「──── は、 」
引き裂かれて転がったキャンバスから半分だけのオレの目がこちらを見上げて、その向こうに薫の上着を持ったミナトが小さく蹲って動かないのが見えた。
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