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Dog eat Dog 15
スカートを掴んでいた力の入らない手を払いのけるのは簡単だった。なのに、うっとりと余韻に溺れている顔を見ると躊躇してしまうのは、体の相性が良かったせいか?
残念だ。
「 楽しかったよ、大沢サン。あんたアルファよりメスの方が似合ってるよ」
ひひ と最後に小さく笑い、下生えの上に転がる大沢を残してそこから足早に立ち去った。
朝は食欲がなくて、とりあえず目を覚ますためにコーヒーを啜るだけ、それと気が向けば気休め程度の栄養素のサプリを数粒、あとはカロリーを計算して必要なその分の何かを口にする。
そんな適当な食事でも生きて行けるのだから、弱いと言われているΩも意外としぶとい。
いや、しぶとい個体だから生き残っているのか。
この先、血を残す可能性もないのだから、こう言った個体こそ淘汰されるべきだと思うのだけれど……
「 四月一日君、ちゃんとご飯食べてるのかい?」
「え はぁ、まぁ」
瀬能先生に心配をかけるほど貧相なこの体は遺伝だからしょうがない。父方の血を引けばまぁそれなりにしっかりとした体躯にもなったんだろうけど、残念ながら母方の血筋は太りにくく筋肉もつきにくい体質だった。オレは残念な方の遺伝子を継いでしまったことになるんだろう。
どのサイズの白衣を着てもぶかぶかと言われるし、白衣のシルエットのせいか食事をしているか聞かれる。
「オーバーワーク気味かい?」
「あー いえ、どうなんでしょう。どうしてもテーラーメイドは時間がかかる物なので、仕方がないことだとは思いますが」
オーダーメイドの抑制剤は個々で調整が必要になってくる。それを一件ずつ行うのだから時間がかかるのは当然だ。
「そう、ところで……今あるのはすべて後回しにしてコレ、最優先、最短でお願いできるかな?」
「は ?」
そう言ったことを今までに言われたことはなくて、またこの研究所の理念としてもそう言った形の注文は受け入れないはずだった。珍しいことに目を瞬いていると、オレの手にぎゅっと紙を押し付けてくる。
戸惑いながら、いつも渡されるオーダー用紙に視線を落とすと『発情薬』と言う文字が飛び込んできた。
付け加えて言うならば、テンプレート部分以外はすべて手書きで、明らかにおかしな仕様だ。
身長体重も小数点までは書かれておらず、明らかに目測か……あるいは第三者に記入されているように見える。
「すべて一人で制作後、この薬に関しての情報はすべて破棄してもらえるかな?」
また「は ?」と声を出しそうになったが、寸でで飲み込んでこくりと頷いた。
いろいろと噂のある瀬能先生のことだ、深く追求してはいけない立場からのオーダーかもしれない。
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