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Dog eat Dog 18

 項垂れて踵を返す、せっかくストレス発散に来たのにストレスを溜めていたんじゃたまったもんじゃない、かつらごと持っていかれなかっただけ良しとしておこう。  気持ちを切り替えて、無理矢理口角を上げて歩き出そうと背筋を伸ばす。 「   ────君、これを 」  そう声を掛けてきたのは仕事のできそうな上質のスーツを着た男で、その手にはさっき人込みに消えたオレのニット帽が持たれていた。  ホテルのラウンジは照明が少し落とされていて、洗練された雰囲気があったけれど、森ガール風の今のオレには似合わない。目の前の眼鏡の男……中田と名乗ったこいつにはぴったりだったけど……  オレの手を触ってくる腕にはネットで見かけたことのある時計が嵌められていて、プレミアがついて値段が跳ね上がってやしなかったかと、「こう言う所初めてです」と大袈裟にはしゃぐ合間に思い出していた。  下心ありありで、帽子を拾ってくれたお礼を と言うオレを、わざわざこんな所に連れてくるんだから、こいつはこいつで下心丸出しだ。 「さすが!」 「知らなかった!」 「スゴイ!」 「センスがいい!」 「そうなんだ!」  マジ便利。  もっとも、そればっかりじゃいけないんだろうけど、この男はそんなことどうでもいいらしくって、聞いてもいない自分の経営している会社のこととか、親もαなことだとか、趣味のヨットやら車やら勝手にぺらぺらと話してくれるから非常に楽だった。  人の話を聞かない、独りよがりで、支配的で、αらしいこの男の話に興味の欠片も湧いてこず、楽しそうなふりをして相槌を打つのはかなりの苦痛だ。  早く部屋に誘えとばかりに、さっきから遠慮なく撫で廻してくれている指を絡めて、下から覗き込むようにして赤い顔を中田の方へそっと倒す。 「   ふみさんはいい匂いしますね、もしかして……」  照れるふりしてゴシゴシ擦って赤くしておいた頬を見せつけるように微笑んでから、恥ずかしそうに膝の部分のスカートをぎゅっと握り締める。そして、本当に内緒話を言うように声を潜めて、こちらに身を傾けてくれている中田の耳元に、「中田さんの匂いに釣られて……ヒートが、来てしまったかも」ともじもじとした声で言ってやる。  紳士ならば従業員に言って抑制剤を持ってこさせるだろうけど、ゲス中田はあっさりと上に部屋を取ってありますよ と、笑い転げたくなるようなセリフを言った。  ふ、ひひ、と零れそうになる笑いを堪えるのは中々の苦痛で、でも部屋に着くまでなのだから と、ぐっと息を詰めて気を反らす。  中田はこのホテルに馴染みがあるのか、迷うそぶりも見せずに大きな歩幅で先にどんどんと進んで行くので、ちょっとよそ見をすれば置いて行かれそうになってしまう。こう言う時に、この間の大沢だったら……とつい思ってしまうのは、αらしくないくらい、オレの会話に合わせてくれたり、オレの歩幅に合わせてくれたりと、気を使ってくれたことがなんだかんだと嬉しかったからだ。

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