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Dog eat Dog 36

 『危険なことを止める』  そんな親心的な物だけでこれだけのことをした と?  よほど胡乱な顔をしていたのか、瀬能先生はふ と笑う。 「今、オメガ研究がちょっと微妙な位置にあるの、知らないわけじゃないでしょ?」 「はい、それは……」  このオレでも知っている事柄だ。世界的に問題になった倫理的観点から今、世間ではΩ研究関連に厳しい目が向けられている。  それはこのつかたる市及びそこに建てられているこの研究所に対しても同様だ。 「君には、来たるべき時にすべきことをお願いするよ」 「  ────は?」 「これまで通り、テーラーメイドを依頼するくらい かな。ただ、今回のと同じ形式だけれどね」 「……それは」  オレのように、ヤバいことに使う と? 「ノーって言ったら、機械操作に不慣れな僕が君のオモラシ映像をいろんなところに垂れ流しちゃうかもよ?」 「 ────っ⁉」 「いやまぁ、冗談だよ。僕も今回のことはやりすぎたなーとは思って反省してるんだよ?まさかのコレ とかさ」  とんとん と首筋を叩くしぐさに飛び上がる。  そんなことの報告まで行っているのか……と、わざわざドーランとファンデーションで気づかれないようにしてきたのに、それも無意味だったらしい。 「お仕置きとして、発情薬使った後は薬が抜けるまで放置の方向だったんだけど。まぁ依頼したとこが悪かったね」  ははは と笑う。  いや、気分的にはHAHAHA だ。 「あ、違うか、工作員が悪かったのか」 「そ そんな  問題では……」 「で、消えないんだろう?ソレ」  人を食ったような笑みにデスク上のペーパーウェイトを投げつけてやろうかと思案していると、「文鎮はやめてよ?」と声がかかってそれも断念した。 「まだ、完治したわけじゃ……ないので、わかりません」  悪あがきだ。  自分の体なのだから、自分が一番よくわかる。この首の噛み傷は痕が残る と。  一矢も報いることができないまま、瀬能先生のすっとぼけたような笑顔を睨み返すのが精一杯だった。    妙な疲れのせいでクタクタになりながらマンションへ帰り着くと、ドアの前でうんこ座りしている時宝が時間を潰し切れずにドアにもたれながらウトウトしていた。  ドアを開けるには声をかけなければならなかったが、それはそれで癪だ。  どうしてやろうかと睨みつけていると、寝ぼけているのか時宝がすん と鼻を鳴らしながら顔を上げる。空気中の何かを嗅ぎ取るような行動はα特有の行動だ、鋤鼻器に少しでもフェロモンを取り込もうとする本能かららしいが……

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