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落ち穂拾い的な あの日、あの時、あの後、ごたつきました。
食堂の端で珍しくおにぎりを食べている四月一日を見つけ、五十嵐はいないものかと見渡してみるが、タイミングの悪いことに五十嵐は外に食べに行ってくる~と、そう言って出てしまっていたのを思い出した。
四月一日と食事の時間が合うなんて珍しいのに、つくづくタイミングの悪い人だ。
「ここいいですか?」
嫌がられるかな?と思わなくもなかった。
この四月一日は人見知りが酷くて、同期の五十嵐でさえ仲良く話をしているのを見かけないくらいの人だったからだ。でも、どうしても人間は好奇心に勝てない生き物だ。
コイバナは、自分に縁遠い分、聞いてて楽しい‼
「あ うん」
そう言うとテーブルの上に広げていた野菜ジュースや弁当箱の蓋を少し自分の方に引き寄せ、俺にスペースを取ってくれた。
「ありがとうございまーす!」
にっこにっこと笑って腰を落ち着けて、こちらも弁当を広げる。
「美味しそうだな、肉がもうちょっと欲しいけど」
「これぐらいがバランスいいんですよ!何か食べますか?」
「あ いや、すまない、食べれないかもしれないから遠慮しておくよ」
「あ!卵は今日は出汁巻ですよ?えっ先輩って砂糖じゃなきゃ駄目な人ですか?」
「ダメ じゃ、ないんだけど、今は何が食べれるかわからないから」
「?」
不思議な物言いに納得できなくて、こてんと首を倒して不思議だ とアピールすると、四月一日はおずおずと『葉酸』と書かれたサプリメントを机の上に出してきた。
わからない でもない。
俺にはまだまだ関係のない話だけど、聞いた事はある。
「え……おめでた⁉」
「声っ!声大きい!」
「あっ おめでとうございます!」
「ん、えっと、まだ出て来るまで四か月あるんだけどね」
おおおおお!
「番にもなれて子供もってことは、結婚は?もう済ませたんですか?式はもうしちゃいました?お祝いします!」
「ちがっちがっ 番だけど、……結婚する気もないから式とかも……」
「え⁉ええ⁉」
カップルごとにそれぞれの在り方があるのはわかってはいる事だけれど、模範的な順番を踏まない人間に対して「え⁉」と思ってしまう悪い癖は治さなければと思ってはいる。
これはきっと、自分がそう言うのに憧れているからだ。
「どさくさで 番になっちゃったし、これ以上……相手の負担になるのもあれだろ?」
「あれ って……ちゃんと話し合った結果なんですか?」
「や、できたことは話してない」
「なんで⁉どうしてです⁉自分の大切な人が大切なことを自分を蚊帳の外にして決められることほど悲しいことってないですよっ!よくないことですっ!大切なのに……ハブられて すごく傷つくんですよ?」
はっとなってきょときょとと辺りを見渡した後、バツが悪い顔で身を小さく縮めた。
「わか ってはいるんだが、その、作ろうとしてできたわけじゃないんだ、だから……あいつは喜ばないかもしれない」
四月一日の顔には、これから芸能人としてやっていこうとしている彼氏の足を引っ張るんじゃないだろうかと言う感情が見え隠れしていて、俺はむっと唇を突き出して眉をしかめるしかできない。
「たまたま、できちゃったんです?」
「……うん、たまたまなんだよ。……手錠が外れなくてバタバタしてたら薬を忘れてたって言うか……」
「て……?」
「やっ何でもない!えっと、阿川君にはそう言った予定は?」
「…………え、あの、振られたばかりで、……まず相手探しから、デス!」
痛い所を尋ねられて、俺はしゅん と項垂れるしかない。四月一日もわたわた……としていて、食事中に申し訳ないことした感が半端なくて……
仕方なく項垂れてロールキャベツを突いた。
END.
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