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落ち穂拾い的な 残念!五十嵐くん!
近頃、ぽそぽそと仕事を中断しておにぎりを食べていたり、お菓子を食べていたりする。ちょっと食に気を付けるようになったのかとほっとしていたら、珍しくこちらと目が合った。
この四月一日と言う同僚は本当に変わった……じゃない、社畜精神溢れ……でもない、仕事熱心な奴で、放っておくと仕事に集中しすぎて食事はおろか水分もまともに摂らない。Ωは庇護欲をそそりやすい小柄な傾向があるらしいけれど、四月一日は群を抜いて小柄で細い感じがする。
「お、あ、え、えっと、飯食ってるんだな」
「ぅ ん、ごめんな、仕事中なのに」
「や、いいんだって、あ、や、仕事に支障が無かったら別に」
「ん あの、ちょっとずつ食べないと……気持ち悪くなるから」
「んあ?具合悪いなら 俺が引き受けるから休めば?」
「あー……具合じゃなくて。あの、もう少し、安定したらちゃんと報告しようと思ってたんだけど、五十嵐に、一番迷惑かけるだろうから……」
そう言って俯いた四月一日の襟首の汚れに気が付いた。
肌色の……化粧もしない男が、服を肌と同じ色の化粧で汚す理由なんて一つだ。
番の、歯型を隠す為だ。
「あ、 ぇと──」
俺の知る限り四月一日にはそう言った浮ついた話とは無縁な奴で、仕事の虫で、人とはちょっと距離を取るような感じで……
だから、ちょっとそんなαとどうこうってイメージのない奴だったんだけど。
「…………」
視線に気づいたのか、四月一日は頬を少し赤らめた。
「つわりが酷いんだ」
「えっっっ」
「──四か月後に、産休に 」
「あっっえっっ ええ⁉」
「お オレみたいなのが、って……驚いただろうけど」
「やっっえっっ あっっっ⁉そんなことない!」
「う?あ あはは、そんな感じで……五十嵐がいてくれるから、安心して休みに入れるよ、よろしく」
最後の一口のおにぎりを口に詰め込んで、四月一日は立ち上がった。
細っこい体はその中にもう一つ生命が入っているようには見えず……でも、雰囲気は少し丸くなったと言うか、穏やかになった?違うな、ひび割れた部分に何かが注がれて、満たされて角がなくなった みたいな?そんな感じだ。
でも俺が感じるのは、スカッと指から何かが逃げて行ってしまったような、そんな……
「 ? 五十嵐?」
「あっやっ やー……おめでとう!」
指をどうしていいのかわからなくて、とりあえず空を掻く。
でも、まずは伝えなければいけない言葉だけは絞り出すことはできて。俺の言葉を聞いた四月一日は酷く安心したような表情を零して、滅多に見せない珍しい笑顔を小さく零してから「ありがとう」と返してくれた。
「 」
「せーんぱい」
四月一日が仕事に戻ったのを見届けてから、後輩がちょこちょこと近寄ってきて訳知り顔でこちらをにやりと笑ってみてくる。
その笑みに腹が立って、またファイルを取ってこさせようかどうしようか迷ったけれど……
その両目に宿ったちょっとした同情の感情を見て、溜め息を吐いてその髪をくしゃくしゃと混ぜっ返した。
END.
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