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落ち穂拾い的な 小遣い稼ぎ
こそこそと……する必要はないのだろうけれど、瀬能先生に頼まれた物を運んでいる最中はなんだか後ろ暗い気分になって……
「いや、ふつーにヤバいことだよな」
ふと呟いた時に、背後にカツン と靴音を聞いて飛び上がった。
「 ────四月一日」
「ひゃっ ひゃ……はい」
噛みかけた言葉を飲み込んで、そろそろと後ろを振り返ると渋谷室長だ。オレとどっこいどっこいな目つきの悪さにどこか親しみを覚えると同時に、その性格のせいで会話したくない人物のトップ争いをするくらいの人だ。
どうでもいいことの話をだらだらするのは……好きじゃない。
「忙しいのか?クロノベル製薬のことで意見が聞きたいのだが」
「あ、あー……の、ですね」
手の中に視線が来るのがわかったが、慌てて隠すと余計に怪しまれるかもしれない と、掌を汗で濡らしながらぐっと力を入れて手を止めた。
「それは?」
「 倉庫から持ってくるように頼まれたものです」
渋谷室長は、オレからしたら酷く長い時間逡巡していたように思う、すっかりオレの掌は汗に濡れてしまっていて、居心地悪いことこの上なかった。
「 中身を」
「あ、の、 それは、」
平の研究所員が室長になんて逆らえるはずなんかない。躊躇って見せることが精いっぱいだ。
これで諦めてくれるかと期待してはみたが、この目つきの悪い室長はそんなことでは諦めてくれなかったらしい。オレ以上な三白眼な目がじろりと見下ろして、中身の無事なんてこれっぽっちも考えていないような手つきで手の中の荷物を掴まれてしまった。
「あっ!困ります!」
「この研究所において、上司に見られて困る物を持っていると?」
ぎろりと睨む視線は、どこか蛇を思わせる。
苦手な目だった。
「瀬能先生の頼まれ物なんですっ!」
意を決してそう返すと、手の中から荷物を取り上げようとした手がぴくんと止まった。
『瀬能先生』の名前を出した途端、渋谷室長の纏う空気が変わった。ぴり と言うかなんと言うか、引き締まったように思える。
「瀬能、先生の」
「頼まれたものです」
渋谷室長の顔色はみるみる悪くなり、やがてこちらにも聞こえるほどの舌打ちをして荷物から手を離した。
その様子はどこか異様で……
この政府と民間からの出資によるこの研究所において、平ではないのに肩書を持たず、役付の研究員から軽んじられることもない、政民どちらの派閥にも研究にも口を出しても許される、そんな特異な立場の『瀬能先生』を恐れているようにも見える。
「わかった。行きなさい」
苦虫を嚙み潰したかのような顔と言うのは、こう言う顔を言うんだろう。
瀬能先生はそう言う表情をさせる立場で……なのに、彼らは先生に対して何かできる訳ではない。
「 何者なんだ、あの人」
呻くように言って、取り上げられそうになった荷物が無事かちらりと覗き込んだ。
輪っかのマークの入ったペン型の注射器は、異状ないように思える。
時々、思い出したかのようにこうやって記録に残らない薬を作るように指示が来ることがあった。
これを何に使うのかと、ヤバいかな?と思いつつ一度聞いてみたことがあったが、
「僕だってお小遣い欲しいよ?」
と、犯罪動機のお手本のような返事を返されて、それが嘘なのかどうなのかオレには判断できなかった。
良くはわからないままこうやって、違法に作り続けた薬を……オレはいつまで運び続けるんだろうか?
END.
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