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かげらの子 18

 ふるりと震えるそれに、捨喜太郎は思い切って声を荒げた。 「誰だ!」  名を応える代わりに小さく引き攣ったような悲鳴が上がり、続いて木の枝のしなる音や踏み折る音がしてやがて静まり返る。  獣ではなく人がいたと言うのは分かったが、声を掛けただけで転がるように逃げる程の怒声を出したわけではなかったので、捨喜太郎はその事態に胡乱な顔で林を睨んだ。  灯る光が一度瞬いて、そしてそれでもまだそこにある。  なんだ?と、問い掛けの言葉が喉の途中で引っかかった。  一際強い風が吹き、カコカコと言う音と共に林を揺らすとそれに引っ張られるように黒くしなやかな紐がたなびく。  濃い墨で描いたような滑らかな黒の曲線に捨喜太郎は、目を奪われた。  のたうつ、巨蛇  そう思い至ったのは灯る光がこちらを見ていると分かった時だった。  下生えの上に仰向けに押し倒された少年が、こちらをじぃっと見詰めていたのだ。余りにも鏡のようで、捨喜太郎がそれを目だと思えなかったのはその美しさのせいだと理解すまでに、随分と時間がかかった。  蛇の胴のようにうねる長い髪、鬼灯のような丸い目と、細く尖る顎、そして無防備に投げ出された手足の白さが印象的で、捨喜太郎はふと感じた期待に胸が高鳴る音を聞く。  彼が、道祖神の場所に居た村人だと、何故だか脳味噌ではなく胸の中心の辺りが訴えかけた。 「君はっ」  その問いかけが彼を動かす鍵だったとでも言うように、するすると這う蛇のように髪が動く。 「 君は、あの時、私を見つけてくれた子だろう?」  くるりと体が翻り、瞬かない両の瞳が捨喜太郎を見詰める。  声が聞こえない距離でもないだろうに相手の反応はなく、捨喜太郎は風か葉擦れの音のせいで届かなかったのかともう一度声を上げようとした。 「 ────お止めください」  背筋をぞっとさせるような硬質な声は伊次郎だ。  慌てて振り返ると、部屋の入り口から捨喜太郎の向こうに視線をやっている風だった。 「あれをこちらに呼んではいけません」 「は?」 「昨日、会わせるとお約束しましたね。あれは宇賀と言います」  村人達よりも幾分草臥れた着物を胸の前で掻き寄せながら、宇賀と呼ばれた彼は名前が聞こえたからかふらふらとこちらへと歩き出す。  土と草に汚れた白い足が前へ進む、ただそれだけなのにやけに捨喜太郎の目を引き付ける。 「汚れた体で寄るんじゃない」  真横で聞こえた伊次郎の声に驚いて大袈裟に飛び上がると、冷える視線が上から注がれた。 「あ、の   」  先程からの伊次郎の言葉に捨喜太郎は違和を覚えて、そろりと窺うように降ってくる冷たい視線を見上げる。

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