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かげらの子 28

「行くか?」 「おん、いばりが出るけ、先行っといて  っ」  そう言いながら男の肩が更にぶるりと震えたのが見えたと同時に、ぼとぼとと重い雫の落ちる音と微かな湯気の立ち上りが見えて……  精液に塗れた体に尿が垂れ流されて、白い面と、黒い髪と、鏡面のような双眸が汚されていく。  黄色い液体がぼんやりと座り込む宇賀の頭頂部から溢れ出し、ぱたぱたと草を打って流れて行くのを、捨喜太郎は食い入るように見つめる。  まるで先程から散歩をしていたとでも言うように、二人はけらけらと笑い合い、それから懐の物を投げ捨てて歩き出した。  目の前の明らかに異常な出来事が、彼らには日常なのだとでも言いたげな雰囲気に飲まれて、捨喜太郎は息を吸うのに失敗して「ひぃ」と声を漏らしてしまった。 「あぁ?」 「おい」  遠くに雀避けの音はしているとは言え、早朝の村外れではその声は孔雀の羽のように目立つ物だったようで、行き過ぎようとした二人ははっと目を見合わせて茂みへと足を向ける。そしてそこに蹲るようにしてへたり込んでいるいる捨喜太郎を見つけて、蛙を見つけた幼子のようなにたりと厭な笑みを浮かべた。  首根っこを引っ掴まれて、籠城していた低木の茂みから引きずり出され、捨喜太郎は抵抗をしようと藻掻いたが屈強な男二人がかりで掛かられると反撃の隙すら生まれなかった。 「見ぃよ、こいつ勃ちよぅ」 「ほんまや、 は、はは」  知らず知らずの内に、宇賀の痴態を見て昂っていたらしい股間を指摘されて、捨喜太郎は顔に血が集まるのを感じながらなけなしの抵抗とばかりに股間を押さえて隠す。  見られてしまったものがそれでどうにかなるとは思えなかったけれど、草の上を引き摺られて行く捨喜太郎にとっては精一杯だった。 「うが、うがや。お客さんも混じりてぇと」 「 ぅ」 「や 止めろっ違う!俺はっ  こんなっ」  必死に腕を振るい、首を掴む腕から逃げ出すも、そうしている内にもう一方の腕が伸びてきて捨喜太郎を押さえつける。 「うがに、何を言っても無駄やが、 はは」 「うがやは、馬鹿やけぇ言葉んは知らん」  小便の臭いをさせながら、こんなに汚されても美しさを損なわない鏡面の瞳が捨喜太郎を見た。

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