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かげらの子 46
けれど、こうしていても埒が明かない、仕方なく情報を纏めようと冊子を取り出す為に鞄を開けた。中にはこの村から捨喜太郎に送られた招待の手紙も入っており、先程伊次郎が書いてくれた名前の紙をそれと一緒に並べて見比べる。
一癖ある手紙の文字と、流暢に書かれた自分の名前を交互に見遣って、「ふん?」と首を傾げたそれらを少し離して眺めいたが、やがてそれを見比べるのにも飽きて畳の上へと降ろす。
「…………この手紙を貰った頃には 」
ただ、この村で祀られている蛇神の事だけが気に掛かっていたのに……と、宇賀の鏡の様な双眸を思い出す。
「宇賀 は、参加するんだろうか?」
少ないとは言え村人全員が参加する祭りで……この村にいる筈なのに、村人と呼ばれないあの子は……
「 宇賀……」
名前がつい口を突いて出れば、朝に彼を膝に乗せてぽつぽつと言葉を交わした事が思い出され、細い頼りない華奢な体を思い起こさせる。長く垂らされた烏の濡羽色の髪や、細いのにしなやかな体と肌理の細かな肌はひやりと冷たくて、人の温く粘つくような物とは違って好ましかった……と思い出して、捨喜太郎は頬を赤らめた。
鼻の奥に残る花薄荷の匂いを思い出すと、じわりと触れ合った皮膚に宇賀の感触が蘇ってくるように思う。
体温を取り戻した唇の艶やかさと、白磁のような透明感のある皮膚と、腕の中にすっぽりと収まって嬉しそうにこちらの名前を呼ぶ姿が、捨喜太郎の背筋をぞくぞくと撓らせる。
「 ぁ、つい…… 」
どうして、宇賀は好ましい匂いがするのか、
どうして、見詰めると心が凪いで行くのか、
ふぅ ふぅ と息を吐いて熱を逃そうとするが、宇賀を思い出す度に新たな熱が生まれるようで、その熱の促しのままに股間を押さえつける窮屈な布をもぞもぞと整え直す。
人の形をしていない、男としても、生物としても役に立たない奇妙な形のそこに、気を遣る事は極力避けていたけれど、宇賀に受け入れられた物だと思うと意のままにならない勃起ですら許してしまえそうな気になり、苦笑しながら天井を仰いだ。
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