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かげらの子 59

 招かれたからと浮かれ気分でこの村に来たのは良くなかったのだ……と、項垂れたい気持ちで伊次郎に視線を遣る。  相変わらず、酷薄な顔立ちを厳しくしかめながら、留夫が繰り返し宥めている村人達を睨みつけており、その雰囲気は声を掛ける事が躊躇われる程だった。 「   とにかく、こんな乱暴な事はよろしくないんは分かるな?せっかく来て下さったお客人に怖い思いをさせて怪我までさせて。こん村の人間が情なしやと思われるやろう?」  「な?」といつものにこにことした笑みを向け、村人の背中をぱんぱんと叩く。 「それはこちらにとっても、榎本様にとっても良くないんは分かろうが?」 「  は そう、ですけど   」  再び、ぱんぱんと肩を叩き、留夫が促す。 「お前らの気持ちも分かんが、お客人にしでかした事には挨拶せんといかん」  そう言われると、村人はやはりもごもごとお互いを視線で探り合った後、「悪かった」と小さな子供でももう少しましな謝罪が出来そうな言葉を漏らした。  ともすれば聞き逃してしまいそうになるその声を、捨喜太郎は素直に受け入れる事が出来ずに反射的に留夫の顔を窺い、それから伊次郎を見る。 「こいつらには私の方からようくようく言い聞かせておきますので、どうかこの度は私に免じて水に流しては頂けませんでしょうか?」  そう言うと留夫は土で汚れた畳の上に正座をし、両手を突いて深く頭を下げた。 「申し訳ございません」 「留夫さんっ  止めて下さい!貴男が頭を下げる事じゃ……」  慌てて駆け寄り、その体を引き起こそうとするもその体はがっしりとしていてびくともしない。  自分よりも年上の人間に土下座をされて狼狽えないでいられる程、捨喜太郎の経験は豊富ではなく、人に頭を下げさせていると言う居心地の悪い立場に、真っ白になった頭をぶるぶると振った。 「お許し下さい」 「だから そんな   顔を上げて下さい……」  自身に行われた暴行だけなら、何かしら自分がこの村の禁忌を犯したのだと納得も出来たが、宇賀にまで暴力を振るわれた事に関しては素直に飲み込めず、留夫に安易に謝罪を受け入れます とは言えず、口を引き結ぶしかない。 「   止めて下せぇ  」 「頼んます  」  後ろの村人達も狼狽えながら留夫の背中に縋りつき、次々と止めるように言葉を零す。

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