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かげらの子 60

 こうなってしまうと捨喜太郎自身が、悪いのは自分ではないかと言う気になってしまい、受け入れ難い謝罪を受け入れる為に口を引き結んだ。 「  困らせるものでは、ないでしょう」  それまでこちらのやり取りと見ていた伊次郎がそう告げる。 「それでは貴男方の気は済むでしょうが、榎本さんは押し付けられた謝罪に困惑するだけです。謝るなら第三者が頭を下げるのではなく当人達が償いに相応しい態度を取るべきでは?小さな子供のように、親の背中に隠れて謝罪まで親にさせるつもりですか?」  人とのやり取りが得手ではない捨喜太郎ですら、その言い様が人の神経を逆なでする物だと言う事が分かった。案の定、色めき立った気配がざわりと広間に満ちて、息苦しくすら感じる程だった。  怒りなのか、そうでないのかは判然としなかったが、留夫の背に縋りついている村人の手が固く結ばれてぶるぶると震える。  誰かが動けば、一気に弾けそうな雰囲気に、捨喜太郎は思わず声を上げた。 「 ────っ わ 私はっ   もういい、ですっ、  それよりも、手当を……お願いしたい」  語尾は震えて消えてしまいそうだったが、限界まで膨らみ切った風船のような空気を萎ませる事には成功したようで、顔を上げた留夫が二、三何事かを言うと、村人達は不承不承ながら頭を下げてぞろぞろと広場を出て行く。それを見送り、留夫はもう一度、捨喜太郎に向けて深く頭を上げて見せた。 「ありがとうございます、榎本様が寛大なお方で良かった」  ゆっくりと上げられる顔はいつものにこにことしたもので、緩む空気に捨喜太郎はほっと息を吐く。 「では手当てをさせて頂きますが、その前にお体を清めませんと」  苦笑を漏らされ、捨喜太郎は自身を見下ろしてその姿が庭を駆け回った犬よりも酷い有様な事に、改めて気付かされた。 「私よりも、宇賀の手当てを……」  振り返ると身を縮込めて、自らを可能な限り小さく見せようとしているかのように蹲っている。  目を伏せてこちらを見ようともせず、怯えているかのようにも見えた。 「どうしたんだ?」 「宇賀、今日はもう山に帰りなさい」 「え⁉」  手当すらせずに追い出そうとする伊次郎に、捨喜太郎はさっと首を振って宇賀との間に割り込む。

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