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かげらの子 95
追いかけるように腕に痛みが走り、捨喜太郎は何も分からないまま痛みを堪える為に着物の袖を握り締めた。
「なん しよんや あんた 」
誰の声かは分からなかったが、怒りの下からなんとか人に聞こえる声を絞り出したかのような、そんな声だった。
再び月が雲に入ってしまった為に辺りはまた暗闇の中に落ちて、遠くから急いでこちらに駆けてくる明かりだけが唯一の光源だったが、それでは男の表情までは映してくれない。
捨喜太郎は呻きながらもなんとか体を起こし、その男から距離を取ろうとじり と後ずさると、その動きを察知したのか黒い影のように見える男が長い棒を振り被った。
「 ────っ」
咄嗟に避ける事は出来たものの返す刀で逆側から薙ぎ払われ、力任せのそれに抗いきれずに横へと吹き飛んだ。
「 っ や め、っこんな事してる場合じゃないんだ!宇賀をっ 」
「こん な こと っ⁉」
怒声はびりびりと鼓膜を震わせ、草叢から立ち上がろうとした捨喜太郎は一瞬身を竦ませる。
「な っんやとっ!」
もう一度大きく振り被った棒が叩きつけられた時、身を守ろうと反射的に出てしまった腕に当たってみしりと軋む音が骨を伝う。
寒気を感じて、震えたくなうような痛みが左腕から駆け上がり、捨喜太郎は堪らずそこに膝を突いて「あ゛ 」と声を上げた。
「お前に 産まれた子が、どうにもならん形なん……親の気ぃ分かるか?」
体を動かそうとする度に痛みで息が詰まり、男の言葉は切れ切れにしか聞こえなかったが、捨喜太郎はその男の言う事が十二分に理解できた。以前に伊次郎が言っていた村に子がいない、出来ても奇形ばかりで生きられない、そう言っていたのを痛みに霞みそうになる思考の端で思い出す。
「先神さんに すがらんと 、こん村は ──── それを、お前は こんなこと、言うんか 」
追撃をしようとしているのか再び男が棒を構えるのを見て、それを避けなくては と捨喜太郎はなんとか足を踏み出す。
「お前なんかの 種ぇつけさせて っええ訳ねぇが!」
耳の傍をひゅっと音が過ぎ去り、熱い痛みが頬をじわりと染め上げる。
「 っ」
男の言葉に思う所がない訳でなかったが、こうしている間にも蛇の塊はずるずると影の方へと移動しており、捨喜太郎は駆け寄れないじれったさに目の前の男を睨みつけた。
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