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かげらの子 105

「──── って感じです」 「それで終わり?」  ボイスレコーダーを見て、瀬能は納得していなさそうだった。  しずるは記憶の中の頁を捲りながら、その後、程なく村は統廃合で完全に名前も消えてしまい、捨喜太郎が宇賀の子供を引き取り、伊次郎は街に移り住んだ事、土地の調査に入った人間の話では蛇は一匹も見つからなかった事、湖だったのではと思わせる場所があったが水はすべて干上がっていたし、到底水が溜まるような形状ではなかった事が書いてあったと言うような内容を伝えた。  「それから 」としずるは歯切れ悪く言い、続ける言葉をどうしようかと考えているようで、瀬能は首を傾げて最後まで喋るようにと促す。 「  『 ──── 調査の人々が湖の痕跡に立ち入ると、底と思しき場所におめがと持つ者の物と思われる無数の人骨と、一体の……』」  言い淀み、ちらりと瀬能を見る。 「ほら、一言一句そのままで」 「『 ──── 一体の、人身蛇尾のように見える大きな骨が横たわっていた』」  しずるの言葉に瀬能はふーんと軽く返してやはり椅子をきぃきぃと軋ませ、何かを考えるように指先で空中にくるくると良く分からない円を書いた。 「一応、預かっていた日記はこれで最後です」 「そうかい。しかしまぁラスト良く覚えたねー。読む前に写真撮って欲しかったよ!」 「はぁ?まぁ……最近、一瞬見たら覚えられるようになっちゃったので、読んではないです」  しずる自身も良く分からない事柄なのでそう言うと、瀬能はきょとんとして椅子を鳴らすのを止める。 「見て覚えて、頭の中で後から読んでる感じ?」 「ですね、カメラ構えるよりは早いので」 「アルファってホント、チート生物だよね~」  その一言で流すと、瀬能はノートの写真の画像をモニターに映しながらちらりと視線を窓の方に遣った。 「……この榎本捨喜太郎って人が、日本のオメガ研究の草分け的存在で、海外に倣い『おめが』を『Ω』、『持つ者』を『有富(あるふ)』のちの『α』としたのはこの人だよ」 「ええええっそれって、凄い人なんじゃ……そ、そんな人の日記を盗んだんですか⁉」 「違う、違うよー、貴重な資料を譲り受ける際に手違いで紛れ込んでしまっただけだよー」  その棒読みの台詞を苦々しく思いながら、瀬能に倣ってしずるは窓の外に視線を移す。そこから見えるのは来賓駐車場で、そこで先程の人物が誰かを待っているのが見えた。  盗み読みの次は盗み見か と突っ込む気力もないまま、しずるは歩き出したその人を追って視線を動かす。用事を済ませて迎えを待っているだけなのは間違いなかったようで、案の定滑らかな動きで車が入ってそのすぐ傍で止まった。  何の事はないただの迎えと言うだけの話だったが、車から一人の男性が車から降りたのを見てしずるはぴっと姿勢を正す。 「え と   」  右足を微かに引きずりながら歩く男性に寄り添い、綺麗な黒髪を翻す姿は一片の憂いもなさげな程幸せそうだった。 END.

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