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お可愛いΩ お可哀想なα 44
「だってっだってっそう言うのはっ」
「えっちぃのは悪いことじゃないよ?責任云々は置いておくとして、子孫繁栄は生き物としての本能だからね!」
本能 と言われるとなんだか免罪符を貰ったような気分になるけれど、αとしての本能の薄いオレはそれをもらえるのかな?って卑屈なことを思ってしまうと、少しだけ歩調が遅れた。
虎徹先生の今にも床に擦るんじゃないかって思えるような長い白衣の背中を眺めて、結局そこに戻ってしまう自分と、その卑屈さにしょんぼりと肩を落とす。
「オレ、このまま誰にも好きになってもらえず終わるのかなぁ」
「え?僕は阿川君のことが好きですよ」
呟きに答えが返ってくるなんて思わずに思わず飛び跳ねた。
「可愛くて大事な生徒ですから!」
そう言う好きではなかったけれど、それでも大事と言ってらえるのが嬉しくてはにかんだ。
「で?これ、なんですか?」
首から下げられたキャラクターものの防犯ブザーと懐中電灯を見下ろしてそう尋ねると、虎徹先生も同じいで立ちで……
二人で並んでると小学生感が半端ない。
「えーっとですね、毎年この臨海学校の際に様々な恋愛イベント的理由で抜け出す生徒が出る訳です、んで、そんな呼び出し相手待ちの生徒を狙って質の悪いアルファがちょいちょい出てくるのでー」
「見回れ と?」
懐中電灯で顔を下から照らしながら、虎徹先生はうんうんと頷く。
それ、生徒にさせていいお手伝いじゃない気がする……ましてや質の悪いαが狙っているのってΩなんだから、オレが行くとホント、駄目じゃない?
まぁそれを言うなら虎徹先生も見回りに参加しちゃダメな見た目なんだけどさ。
「まぁ君なら大丈夫かな?ってのと、こうやって時間をずらしたら教員用の個室風呂を堂々と使えるでしょ?僕だって考えてるんですよー」
小さな手でVを作る。
「あ そっか……」
「ご父兄からくれぐれもと連絡も貰っているんですよ」
「お父さんが?」
「そうです、銀花くんも六華くんも見た目で困ることがあるでしょうから ってね」
オレの知らないところでそうやってお父さんが気にして手を廻してくれていたことを知って、ちょっとくすぐったい気分になって、くすぐったい思いを誤魔化すために小さく肩をすくめて見せた。
もうずいぶん涼しくなっているけれど、念のためにと虫よけスプレーを振ってもらって、それから……それから……
暗い海の傍、グリーンベルトがすぐそこにあることもあって月明かりもあんまり届かないし、すぐ向こうにあるグリーンベルトには木が鬱蒼と茂ってるし……ってなんだか……なんだか…………
「おばけが出そうだね!」
はきはきっと虎徹先生に言われて、飛び上がる。
昨日今日とそんな話ばっかりで、さすがに涙目になりそうだ。
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