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お可愛いΩ お可哀想なα 56

 仁達から連絡を受けた先生方が探しに来てくれるなら、すぐにここに駆けつけてくれることだろう。  防犯ブザーの音に三人がさっと色めき立ち、シュンを押さえつけていたαが「止めろ!」と短く叫ぶ。 「それっ 寄越せ!」  オレ目掛けて走り出してきた二人を避けるように横に飛びのくと、そのまま勢いをつけてシュンを押さえつけるαの足へと蹴りを出す。 「 っ!」  低い姿勢からの蹴りはそんなに威力はないと思うのだけれど、オレの外見に油断していたからかαは「ぎゃっ」って言う短い悲鳴を上げて姿勢を崩して倒れ込んだ。  αに釣られて倒れ込みそうになったシュンの腕を掴んで、こちらに向き直ろうとした二人のαに向けてライトを投げつけた。  ゴッと鈍い音と悲鳴が聞こえたけれど、それに構わずにシュンを引っ張って駆け出そうとした。 「  っ足  がっ  」  走り出したところでシュンが小さく呻くように零した声に、スリッパを蹴り飛ばした記憶を思い出す。 「っ  シュン、ごめんねっ」  小枝や石が落ちた林の中で素足のシュンがα三人を撒けるほど速く走れるとは思えなかった。  短く謝ってさっと膝裏に腕を差し入れて一気に体を引き上げる。 「わっ」 「舌噛まないようにしててね!」  オレは小柄な方だけど、シュンくらいなら抱き上げて走って行けるんだ!  もちろん、ひと一人を抱えてα達から走って逃げられるなんて思ってない、少なくとも地面が舗装された箇所にまで出ることができたらそれでいい。  幸い体重を気にしてるって言ってただけあって軽いから助かったけど……    木が生え放題、伸び放題になっているせいか大柄なα達より小柄なオレ達の方がここでは有利なようで、三人の声はだいぶ後ろから聞こえる。 「り 六華くんっ僕っ  あのっ  」  今にもしゃくり上げそうな声が心細げに上がるから、緩く首を振って「大丈夫だよ」って答えた。 「オレが絶対、守ってあげるから!」  弾む息を飲みこみながら生け垣を飛び越える。  それを越えればもうそこは舗装された道で、シュンを下ろしても足を痛めることはなさそうだ。 「なん  なんで?だって、僕……」  その言葉の続きがどれかなんてわからなかった。  下心ありで近づいてきたことかな?  苦い飴をくれたことかな?  それとも、突き飛ばしたことかな?  シュン自身に心当たりはあったんだろうけど、オレにとってはグループにおいでっていってくれて助かったし、お腹空てた時に飴を貰えて喜んだし、そりゃお尻はちょっと痛かったけど、それでもオレに向けて笑ってくれたことの方がはるかに嬉しかったから。  それに、だって、オレは…… 「だってオレ、アルファだもん。君のことを守らせてよ」  驚いたのか涙の滲んだ目がぱちりと瞬いて……  ぽかんとしている今の内に急いでスニーカーを脱いでシュンに押し付け、それと一緒にビービーとうるさい防犯ブザーも手渡した。

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