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第2話 生まれ変わったら一緒になろう【賢太郎】

(自分が見たものを、疑う訳じゃないけど……。こんなこと、誰に言っても、僕の頭がおかしくなったか、妄想だって思われるよね……? 何の根拠もないし)  賢太郎(けんたろう)は、自分の見たイメージや夢を、ひとまずスルーした。  しかし、日に日に、彼が夜見る夢は鮮明になっていく。数日後には、(あきら)(ねや)で激しく愛し合うところを生々しく思い出すようになっていた。 「お館さま……」 「賢佑(けんすけ)……。閨では、名前で呼んでくれ。輝宗(てるむね)と」 「輝宗さま……、お慕いしております……」  賢太郎の前世・賢佑が愛を告げるや否や、輝の前世・輝宗は、もどかしそうに賢佑を抱き寄せ、溢れる熱情に任せて、賢佑の唇を貪った。賢佑も、負けないほど熱を込めて、口付けを返した。互いに着物を脱がせ合い、愛おしげに肌を愛撫し合う。既に張り詰めた互いの中心を優しく扱き合う。気持ち良さに肌が粟立ち、甘い溜息が零れる。  二人は重なるように横たわり、輝宗は、背後から賢佑の後孔に触れた。先走りでぬめりを増した彼の指先は、賢佑の若い蕾を優しく刺激し、そこは恥じらいながらも、愛しい人を受け入れたいと、瑞々しく開花していった。  蕾の中に、輝宗の指が入り込み、迷わずに賢佑の良いところをあやしに行く。 「うっ……、あぁあっ……。輝宗さまっ……」  賢佑が堪え切れず、愛しい人の名を呼ぶと、輝宗は猛る彼自身を、賢佑の後孔の入り口にそっとあてがった。 「賢佑……、お前に名を呼ばれるのが好きだ。俺を求めてくれるお前が好きだ」 「輝宗さま……。早く、あなたを、くださいませ」  賢佑がもどかしげに訴えると、輝宗は、ぬるりと賢佑の中に押し入った。その瞬間、賢佑の全身に、甘い痺れが走った。脳まで突き抜けるような快感だった。  夢を見ている賢太郎は、今世では未知の快感を、前世の自分の身体を通じて体験していた。そして、前世の自分にとっては、この快感は既知のもので、幾度となく輝宗と肌を重ねているのだということも含めて、衝撃だった。 (……男同士のセックスって、こんなに気持ち良いものなの……? 少なくとも、前世の僕は、嬉々として抱かれて、よがってるなぁ……。  それにしても、三國部長って逞しいなぁ……。肩とか胸とか。なのに、お腹や腰は引き締まってて力強そうで。あんな良いカラダに抱かれたら、賢佑じゃなくたって、堪らないよなぁ……。  ……って、えっ?! なんで、オトコのハダカにドキドキしなきゃいけないんだ?! 僕、『そっち』の趣味はなかったはずだろ???)  目覚めた賢太郎は、大いに困惑した。自分の先祖や前世についての情報を得ようと、実家の父に電話した。 「僕、戦国時代で、地方の武将に仕えていた夢を見たんだ。やけにリアルでさ。もしかして、前世とか先祖の記憶じゃないかと思ったんだけど。うちの先祖って、地方で武士だったりした?」  夢で見た家紋と思しき模様を手書きし、スマホで画像を送信した。それは藤宮家の家紋だと父は即答した。祖父に確認し、藤宮家は、昔、地方の下級武士の家柄だったことも分かった。  賢太郎の気持ちはまだ落ち着いていなかったが、『生まれ変わったら、来世こそは一緒になろう』とまで契り合った前世が、こんなに強く訴えてくるからには、何らかの形でその思いを遂げてやらないと、自分の先祖は真の意味で成仏できないのでは、と思いつめ、輝を訪ねることにした。  三國工務店へ書類を届ける用があった折、「前回、中座した非礼のお詫びを申し上げたい」と、江川係長を通じて事前に相談したところ、輝は快諾してくれた。  前回と同じ応接室に通され、賢太郎が待っていると、輝が一人で現れた。 「三國部長。先日は、大変失礼いたしました。部長にご挨拶している最中で、気分が悪くなるなんて。本当に無礼なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」  椅子から立ち上がり、直角に腰を折って頭を下げた賢太郎の肩に、輝は、いたわるように軽く手を掛けた。 「藤宮君、そんなに恐縮しないで。俺は全然気にしてないから。この間は、ちゃんと家に帰れた? あの日は暑かったし、立ち話が長くなっちゃったからね」  輝は、商談中に倒れた、取引先の社員である賢太郎を優しく気遣ってくれた。 「また長い時間立って、具合が悪くなったらいけない。まぁ座って。今、お茶も持って来てもらうから、少し温かいものでも飲んで、落ち着いて」  輝が言い終わるや否や、制服姿の女性社員が、応接室にお茶を持って来てくれた。  賢太郎は、輝に勧められるまま、お茶で喉を潤し、悩みながらも、ここへ来た本当の理由を打ち明けることにした。 「三國部長にもう一度お会いしようと思ったのは、お詫びはもちろんなのですが、実は、もう一つ、理由があるんです」  輝は、軽く驚いたように、眉を片方上げたが、無言のまま、話の続きを待つように、賢太郎の目を見詰めていた。  賢太郎は、どのように話を切り出したものか散々考えたが、なにせ内容が荒唐無稽なだけに、どう言っても相手を驚かせることには違いなく、単刀直入に行くことにした。 「先日お会いして、手を握った時に分かったんですが、三國部長は、前世で僕の恋人だったんです。あなたと僕は、生まれ変わったら一緒になろうって、約束したんです」

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