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第13話 甘い生活【賢太郎】

 (あきら)賢太郎(けんたろう)も、互いに夢中だった。  これまで特定の恋人を作らなかったプレイボーイの輝にとっては、誰か一人の特別な存在を想い想われるということが、とても尊く思えた。  女性としか交際した経験が無かった賢太郎にとっては、男友達同士のノリを良い意味で保ったままの恋人というのが新鮮だった。  入社三年目にして初めて大きな仕事を形にした直後で、仕事が面白くなり始めた賢太郎にとっては、建設の材料や技術に明るい年上の恋人は、とても頼り甲斐があった。輝の助言は的確だったし、技術面を押さえた賢太郎の提案やセールストークは、お客様にも、いっそう刺さるようになった。それが嬉しくて、輝に報告すると、輝も、意気に感じて喜んでくれた。  三國工務店と関連がない案件でも、輝は、全く意に介さず、相談に乗ってくれたし、賢太郎が他の工務店とも付き合って目が肥えてくると、余計に三國工務店の着実な仕事の良さが見えてきて、結果として、三國工務店への引き合いになることも多かった。  三國工務店の現場の江川係長と賢太郎は、相変わらず仲が良かったし、裏では輝と話しているのだから、商談がスムーズにいかない訳がない。  賢太郎は、Aハウスで、月間MVPに選ばれるほどの営業成績をあげるようになった。入社三年目での月間MVPは、最年少記録で、事業部長から賞状を受け取る賢太郎の写真は社内報にも掲載された。  MVPを獲っても、驕ることもなく、周りに親切な賢太郎の評判はうなぎ上りだった。男性と違ってライバル意識を持たず、素直に感心した女性社員は「ぜひ営業のコツを教えてほしい」と、積極的に賢太郎に話し掛けてくるようになった。その中には、『あわよくば彼女にしてほしい』という下心を持った女性もいたが、賢太郎は、その度に「僕には恋人がいるので」とハッキリ伝え、丁寧にお断りしていた。  賢太郎の週末は、土曜の午後に輝とスカッシュをして、夕食を一緒にとり、仕事の話や勉強をして、夜はそのまま賢太郎の部屋で一緒に過ごし、日曜の朝に再び愛し合って、昼前に別れる、というのが定番になっていた。  初めて肌を重ねるまでは、男同士のセックスに抵抗を感じていた賢太郎だったが、巧みな輝の愛撫に身体を開かれ、すぐに馴染んだ。輝は、前世の輝宗に勝るとも劣らない、情熱的で優しい恋人だった。 「ねえ、賢太郎。一緒にお風呂入ろう?」  輝は、賢太郎の背後から身体をすり寄せ、服の中に手を入れて、胸の突起を、摘まんで引っ張って、悪戯し始めた。以前は触られても擽ったいだけだったのに、輝の手ですっかり性感帯に変えられたそこは、ぷっくりと腫れたように膨らんだ。賢太郎の呼吸はもう乱れ、途切れ途切れに甘い溜息をつき始める。 「んんっ……。そんなことされたら、お風呂まで行けなくなっちゃうじゃん……」  小声で軽く不満を訴えると、輝は、デレデレと鼻の下を伸ばす。 「もう、そんなに気持ち良くなっちゃったの? じゃ、こっちは、どうかな?」  服の上から前を撫で、やわやわと揉みしだく。 「ふふ。もう勃ってる」  賢太郎は身体を捩ってイヤイヤをした。 「もー、ちょっと待ってよお。着替えとか出さなきゃ」 「へ? お風呂上がりは何も着る必要ないじゃん。そのままエッチするでしょ?」  輝は全く意に介さない。愛撫の手を止めず、今度は、賢太郎のベルトを外してズボンを脱がせようとし始めている。 「……だから! こないだも、エッチした後、ハダカで寝て風邪ひいたじゃん! 終わった後に着替え出すとか無理だから、始める前に出しておきたいの!」  賢太郎が顔を赤くして叫ぶと、輝は、ますます嬉しそうな顔をした。 「賢太郎、エッチすると、すぐ寝ちゃうもんね。ふふふ。そんなに気持ち良いの? 男冥利に尽きるなぁ。賢太郎が寝ちゃったら、ちゃんと俺が着せてあげるから、安心して、イキまくって良いからね」  目を細めて、賢太郎の唇にチュッと音を立てて軽くキスをすると、輝は、意気揚々と、彼の手を取って、バスルームに向かう。 「ねえ、なんで、お風呂にローション持って行くの?」  賢太郎は軽く輝を睨んだ。 「ん? お風呂でも、ちょっと前戯的なことをして、気持ち良くなってもらおうかなーって思っただけだよ?」  輝はすっとぼけた。 (……輝さんが、こうやって目を逸らして、とぼけた口調の時は、絶対嘘ついてるんだよな。お風呂で最後までヤル気満々じゃん……。だから、着替え出したかったのに……)  賢太郎は、気持ちを切り替え、輝の背後に回り込むと、少し背伸びして首筋にキスをして、いやらしく身体に触りながら、彼の服を脱がせた。 「……賢太郎も、すごいヤル気じゃん……」  欲情の炎が灯った眼差しで輝が振り返ると、賢太郎も、妖艶に微笑み返した。二人は、脱衣所で熱い口付けを交わしながら互いの服を剥ぎ取り、縺れ合うようにバスルームへ入って行った。互いの身体を洗いながら、愛撫し合い、二人とも絶頂に達するまで激しく愛し合った。 「あー。お風呂でエッチすると、のぼせちゃう……」  ふらふらしている賢太郎の肩を輝が支える。 「ごめん。賢太郎が、あんまり気持ち良さそうな顔してるからさ。もうちょっと頑張ってイカせてあげようって、つい長くなっちゃった。はい、お水飲んで」  冷蔵庫からペットボトルを出し、封を切って賢太郎に手渡す。  お風呂あがりの上気した肌、トロンとした表情で、頭を仰け反らせて水を飲んでいる彼の姿にまで欲情してしまう自分は、色ボケだろうか、と、輝は一人苦笑した。 「はー。生き返った。でも、今、また激しく動いたら、貧血起こしそうな気がする。輝さん、優しくしてね? 僕、できれば次は正常位が良いんだけど」  賢太郎が小首をかしげてベッドから無邪気に見上げると、輝は、もう一度苦笑した。 「……あんなにしたのに、まだ欲しいの? 賢太郎からのお誘いを、俺が断れる訳ないじゃん……。わかったよ、ご奉仕します。お姫様」  すました顔をしている賢太郎の手を取り、手の甲にキスを落とすと、輝は、その艶めかしい肢体を隠しもせず、生まれたままの姿を見せている愛しい恋人に上から覆い被さり、ゆっくりもう一度その身体を愛撫し始めた。賢太郎は、甘える子犬のように鼻を鳴らした。  この時の二人は、好きな人と結ばれ、気兼ねなしに愛し合えることの喜びに有頂天だった。公私ともに順調な二人を、妬み、陥れようとしている人がいるなどとは、想像もしていなかった。

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