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デート_11

陽翔と藍澤さんが姿を見せたのは、数分後のこと。 「おっ待たせー!」 「おい、合流するまでって約束だろう…」 「いーじゃん、ケチケチすんなよ」 どうやら折れたのは藍澤さんで、上機嫌な陽翔はガッチリと手を握っていた。 「ね?大丈夫だったでしょ?」 長谷さんはこっそりと僕だけに聞こえるように呟いて、軽く片目を瞑ってみせてくる。 「それじゃ入ろっか」 離す離さないで揉めていた二人。やっぱりここでも折れたのは藍澤さんで「もういい……」と肩を落としていた。 「迷路は壁に手を付いてれば出られるって言うよな」 そう張り切る陽翔を先頭に僕らは迷路を進む。 「これじゃ一生出られないかもね」 「え………?」 笑う長谷さんに加えて、陽翔に引っ張られながら前を歩く藍澤さんもやれやれと首を小さく振った。 数十分も歩けば長谷さんの言葉の意味を知ることになる。 「………ここ、さっきも通った気がすんだけど…もしかしてぐるぐる回ってる?」 「もしかしなくても回ってるな」 「おかしいな……壁から手離さなかったのに……」 ずっと陽翔の背中を見てたけど壁から手を離してはいなかったように思う。 「確かに迷路において壁に手を付いて進むって言うのは有効的ではあるけど、それは壁際に出口がある場合だけなんだよ」 「この迷路の作りを見てみろ。平屋じゃなくて二階建て。スタートが一階ということは、ゴールは二階だ。つまり俺達が見つけなければならないのは、壁際のゴールじゃなく恐らく中央付近に設置された二階へ続く階段」 「壁際にないことは2回周って立証済みだしね」 いつになくテンポのいい長谷さんと藍澤さんに、僕らはポカンと口を開けて二人を見上げた。 「もしかして………最初から分かってた?」 「まあな」 「教えてくれたっていいじゃん」 「お前が勝手に進んでったんだろ」 「性格悪ぃー」 不貞腐れる陽翔はすっかりご機嫌斜めみたい。 「目下の問題はこれで解決したとして、後はこの分かれ道だね。」 僕らが今いる地点には、さっき通った道以外に二つの分かれ道がある。 「うーん……右」 「なんでだよ?」 「直感!」 「………馬鹿」 陽翔は右かぁ……。僕は何と無く左のような気もするんだけど…。 「………郁弥くんは?」 「え………」 「どっちだと思う?」 長谷さんの問い掛けに咄嗟に右と答えようとして、一瞬詰まる。 “大事なのは周りじゃない。君がどう思うかだけだよ。” 僕が、どう思うか………。 「僕は…………僕は左だと思います……」 自分でも予期しないぐらい小さな声で、もしかしたら届いていないかもと長谷さんを見上げた。 そんな不安を他所に、とても嬉しそうな表情(かお)がそこにあって、僕は思わず見惚れてしまう。 「そっか」 長谷さんはいつだって、僕の声を聞いてくれる。 それがとても擽ったい。

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