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デート_13
甘い言葉と細められた目に勘違いしそうになる。
すき……、好き………っ。僕はもうこんなにもこの人が……。
口から溢れ出しそうで、力の限り長谷さんの身体を突き飛ばした。
「――なっ…!?郁……郁弥くん!?」
呼び止める声も聞かず、 ただやみくもに走った。
追い掛けてくる足音が聞こえなくなるまで……。
迷路でそんな事をやったら当然迷うわけで……息苦しさに足を止めた先で、我に返ったもののどう戻ったらいいのかも分からなくなってしまった。
「………やっちゃった」
あんなに勢いよく突き飛ばして、急に走り去るなんて……。
「怒らせてしまったかな……」
でも長谷さんだって悪い。
あんな…キスなんて………。
自身の唇に触れて思い出すのは生々しい感触。
体温は低いのに、唇は温かかった……。
じわじわとこみ上げる恥ずかしさに耐え兼ねて、壁を背にずるずるとその場にしゃがみ込む。
「…………長谷さんにとってキスなんて…挨拶みたいなものなのかな……」
抱えた膝に顔を埋めて、必死に感覚を忘れようと唇を噛んだ。
だめだ、期待なんかしちゃ。
僕なんかじゃ長谷さんには相応しくない…。
疵や手垢に塗れた、こんな身体じゃ…。
「――何してんの?もしかして迷子になって泣いてる?」
「あーっ!篠原 、俺には優しくしてくれないくせに知らない子には優しくすんだ?ズルい!」
「浅井 、うるさい。おーい、聞いてる?」
もしかして僕のことかな…?と顔を上げれば、若い二人組の青年達が僕を見下ろしていた。
「あ、良かった。泣いてなかった」
そう言ったのは長身で長めの前髪を横に流してる方。
対してもう一人はサッパリとした黒髪で、少し小柄。面白くなさそうに頬を膨らませていた。
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