14 / 79
デート_14
「大丈夫?立てる?」
「ズルい……俺も篠原に優しくされたい」
「だからうるさいって」
何だかんだと仲が良さげな二人だなぁ。
「えっと、大丈夫です。すみません、ちょっと人とはぐれてしまって…」
「やっぱり迷子?俺らと一緒に出口探す?」
その提案に彼の隣からは盛大なブーイングが起こる。
「今日デートなのに!」
「浅井マジでうるさいし、別にデートじゃねーだろ」
「二人で出掛ける、それ即ちデート!」
「はいはい、一人で言ってろ。てか……」
何かに気付いた長身の青年は僕の方へと手を伸ばしてくる。
「血、出てるけど……」
指先が触れたのはさっき噛み締めた唇で、流れ出ていた血を拭ってくれたようだった。
「あ…すみません、ありがとうございま――う、ぇっ!?」
「あ………?」
僕と青年は視線を合わせたまま瞠目する。
僕の身体が急に後方へと引っ張られたから。
バランスを崩して地面に倒れると覚悟したけれど、襲ってきた衝撃は柔らかく温かいもの。
それから耳に届くのは駆け足の鼓動と荒い息遣い。
恐る恐る上げた視線の先には、やっぱり長谷さんが居て、分かってはいても心臓が鳴る。
「は、長谷さ――わっ、え、なに…!?」
「えぇー………怖っ………」
長谷さんは無言のまま、僕の手を引いて早足で歩き始める。
申し訳ないと、振り返りその場に佇んだままの二人にかろうじて頭を下げた。
いつもは冷たい長谷さんの手が、汗ばむほど熱くなっていて、僕はその熱にただ一人胸を焦がれた。
ともだちにシェアしよう!