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番_1
side α
落ち着かない。
何をしても気になるのは時計の秒針だけだ。
「すみません、ギムレットを一杯」
「かしこまりました」
客の注文に意識を引き戻されてシェイカーを手に取る。
「……上の空だね」
カクテルを作る横で、長谷が声を潜めながら俺を笑う。
「今日は早上がりで、明日からは連休……。ねえ、今エッチな事考えてた?」
事を察しているであろう長谷は俺の手からシェイカーを奪い取ると手際よくそれを上下させる。
「………まあな」
「……はは、随分と素直だね。それだけ我慢してるってことかな?」
出来上がったカクテルをグラスに注いで、客の元へ。
戻った長谷は壁の時計を指差して肩を竦めた。
「理性は飛ばし過ぎないようにね。お疲れ様」
「………ああ」
短く返して足早に更衣室へと向かう。
着替えを終えて店を出る前に「今から帰る」とメッセージを入れた。
帰路の途中で今朝のやり取りを思い出す。
『あ、のさ…身体ダルくて……多分発情期だと思うんだけどさ……その、今日帰り待ってていい?』
変わらずΩのフェロモンの香りは感じるものの、性的興奮を起こす事はない。それなのに……。
「……顔思い出しただけでこれか……。思春期のガキみたいだな」
アイツにはどうしようもなく駆り立てられる。
欲しくて、欲しくて、堪らない。
これは本能ではなく、俺の意思だ。
「…優しく、してやれるか……?はぁ……らしくないな、本当」
震えたスマホの画面を確認して、俺は考える事をやめた。
足を早めたのは表示された「はやく」の三文字だった。
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