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番_9
微睡みから目を覚まし、腕に抱いていたはずの温もりがない事に気が付いて慌てて飛び起きた。
乱れたベッドと床に散らかる衣服は、連日の色情を彷彿とさせる。
拾い上げた下着だけを身に着けて、ワイシャツを片手に寝室からリビングへと出てみたが、陽翔の姿は見当たらない。
散らかっていた衣服の中に陽翔の物もあったから、外には出ていないはずだ。
トイレか…………?
と声を掛けるために廊下に出ると、洗面所の方から物音が聞こえて、俺はそっとドアを開けて中を覗いた。
真正面には風呂のドア、右手には大きな鏡と洗面台がある。
その鏡の前に探し人は居て、何やら百面相を繰り広げていた。
しかめっ面に下唇を噛んだかと思えば、途端照れたように笑う。それからバシバシと両頬を叩いては、またしかめっ面に戻る。
………何してんだ。
「………………陽翔、」
「ぇ……――わっ!?つ、司………驚かせんなよな……」
「こっちの台詞だ。黙って居なくなるな、心配する」
手に持っていたワイシャツを裸の陽翔の肩に掛けてやれば、「ありがと」と照れくさそうに呟く。
「で、何してたんだ?随分面白い顔してたが」
「いや普通にシャワー浴びようと思ってたんだけどさ、その、鏡でこれ見たら何か嬉しくなって……」
これ、と陽翔の手が示すのは俺が付けた番の印。
「めちゃくちゃ顔ニヤけるから、気引き締めてたんだけどどうしても頬が緩んじゃうんだよなぁ」
ああ、それであの百面相……。
落ち着きのない陽翔は頻りに項を気にしている。
そこへと手を伸ばして、ゆっくりと確かめるように指を滑らせると陽翔は頬を赤く染めて俺を見上げた。
「痛みはないか?」
「……うん、平気。けどアンタが触った途端、熱くなった……」
変なの、とボヤきながらも嫌悪感は現さない。
「……俺達、番になったんだよな?」
「ああ」
「へへ、じゃあ俺はアンタのものって事か」
「逆も然りだろ」
「?」
「俺もお前のもんだって事だ」
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