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番_10
自分で言ったくせに、言われるのは恥ずかしいらしい。
目を逸らしながら「馬鹿」と口にするのは照れ隠しからだろう。
「シャワー浴びるんだったか?」
「うん」
「一人で平気か?辛いなら一緒に浴びるが…」
「平気、平気。もう発情期もすっかり終わったし」
「そうか。なら朝食用意しておく」
頭に手を置けば、嬉しそうな顔をして素直な頷きが返ってくる。
「出来る彼氏って奴だよな、司は」
「……出来る彼氏、ね。悪かったな、王子様になれなくて」
「王子様?」
「お前の中の王子様は長谷なんだろ?」
きょとんとした顔をした陽翔は、次の瞬間には腹を抱えて笑い始めた。
「ははは、え、何、もしかしてずっと気にしてたわけ?」
「…………悪いか?」
我ながらしつこいとは思う。が、ムカつくものはムカつく。
…………段々思考がコイツに毒されてる気がしてきた。
「いや悪くないけど、ははっ、待って、ちょ、笑い止まんない」
「…はぁ………さっさと入れ」
馬鹿な事を言ったと後悔しながらその場を離れようとして、ちょっと待ったと手を掴まれる。
「アンタには王子様になってほしくないかな。だってさ、王子様と結ばれるのはお姫様って決まってるだろ?アンタと結ばれるのは俺がいいし」
「………………」
「あ、でもそういう意味じゃ長谷さんももう王子様じゃないかもな。郁弥がいるし。まあ、要するにそんな気にしなくても、アンタのことが一番好きってこと。………そういう事だから、シャワー浴びてくるな!」
バタバタと浴室へ駆け込んで行く背中。
………言い逃げしたな。
直前の茹で蛸みたいな真っ赤な顔を思い出して、自然と頬が緩む。
朝食の準備でもしようと身を翻した時、鏡に映った自分の顔と目が合った。
「………ふっ、俺も人のこと言えない顔してるな」
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