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欲_1
side ×××
恋人と言う関係になって、以前より彼は少しだけ本心を口にしてくれるようになった、と思う。
けれど僕は欲深いからまだ足りない。
「それでですね、藍澤さんと陽翔が番になったそうで……陽翔、本当に嬉しそうでした。あんなに幸せそうな顔して、僕まで幸せな気持ちになっちゃいましたよ」
なんて本当に嬉しそうな顔をして郁弥くんは言う。
可愛いなぁ……。
「何か不思議ですよね。僕、自分の周りで番になった二人って初めてなんです。実際どんな感じなんでしょうね?」
僕の隣でテーブルヤシに水をやりながら、郁弥くんは微笑んだ。
「………番、なってみる?」
「え…………」
「僕と」
テーブルヤシに向けられていた目が僕を捕らえて、それはそれは大きく開かれた。
「えっと………」
「………ふふ、嘘だよ。今はね」
「今は……ですか?」
「うん、今は。いつかはそうなりたいって思ってるよ。ダメ?」
「ダメ………じゃないです……」
顔真っ赤。林檎ちゃんだ。
「ね、キスさせて」
喉元を撫でて、指先で顎を掬う。
頬を真っ赤に染めたまま、郁弥くんは目をぎゅっと閉じた。
このまま食べちゃいたいって言ったら怖がらせちゃうかな。
額と唇に一回ずつ触れるだけのキスをして頭を撫でると、郁弥くんは恐る恐る目を開けた。
「ありがとう」
「………もう終わり、ですか?」
「………足りなかった?」
「……その、もう一回だけ」
したい、と言う言葉の代わりに郁弥くんの手が僕の服を掴む。
「うん、僕ももう一回したいな」
もっと僕を求めて欲しい。だからもっと、君を知りたい。
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