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欲_2

――んで、長谷さんは郁弥と番になんないの?」 ニコニコとバーのカウンターに頬杖を付きながら、陽翔くんは上機嫌で僕に問う。 「んー?そうだね、絶賛口説いてる最中かな」 グラスを磨く僕の横で藍澤くんは「余計な事を…」と額を押さえる。 「え、マジ?郁弥が拒否ってる感じ?」 「うーん、そういう訳じゃないんだけどね。僕が欲張りだから、もっともっと求めてもらいたいなって思ってるんだよ」 「うーわ………長谷さんってSっ気あるよな……」 「そう?好きな子から求められたいって思うのは当然のことじゃない?ねえ、藍澤くん?」 返答が分かっていながら藍澤くんへ話を振ると、案の定嫌そうな顔をして「知らん」と一刀両断。 「釣れないなぁ。君達二人はようやく番になったんだね」 「へへ、まあね」 「どう?何か変わった?」 「うーん…これと言って特別何かが変わったって気はしねーけど、でも司が番なんだって思うだけで安心出来るし、すげー幸せ」 郁弥くんの言っていた通り、本当に幸せそうな顔をするなぁ。 まあ、藍澤くんも以前より表情が分かりやすくなったしね。 「そんなに惚気るなんてズルいなぁ。僕も自慢していい?君達に見せたことないような可愛い郁弥くんの一面」 「言っとくけど、長谷さんより俺の方が郁弥と長いんだからな。ぜーったい俺の方が郁弥のこと知ってるし」 「それはどうかなぁ?今の郁弥くんを理解してるのは、僕の方だと思うけど?」 「言うじゃん、だったら俺と勝負――ってか、肝心の郁弥は?来てないなんて珍しくね?」 陽翔くんの言葉で店内の時計に目をやると、確かにそろそろ姿を見せてもいいはずの時間だ。 「そうだね……昨日は何も言っていなかったし、特別なことがない限りは来るはずなんだけど……」 「残業とかしてんのかな?」 働いているんだからそういう事もあるかもしれない。 だけどいくら待っても郁弥くんは現れず、バーも閉店の時間を迎えた。いくら残業だとしてもこんな時間まで掛かるものかと、着替える前にスマホでメッセージを入れる事にした。 『今日は家に来ないの?』と言う僕のメッセージに対して、返信は思いの外早く、『職場の人に飲み会に誘われてしまいました。朝方まで掛かりそうなので今日は遠慮しておきます。』との内容だった。 「返事、来たのか?」 「あ、うん。今日は職場の人と飲み会みたい」 藍澤くんも心配していたのかその内容に少し安堵を見せて、そういう事もあるだろと言葉をくれる。 「そうだね」 彼にだって付き合いはあるんだから、こういう事もあって当然だ。 頭ではそう分かっているのに、 「今日は眠れないな………」 君が居ないだけで僕の心は、こんなにも寒くなる。 きっと君は知らないのだけどね。

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