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二人_4
あ、そっか。
司が幸せそうだからだ。幸せそうに俺の隣に居てくれるから。
「何で泣きそうなんだ?」
「俺の隣でも幸せそうにしてくれるんだって思ったら、何か嬉しくて…」
一瞬瞠目して見せた司は何かを思案して、やがて呆れたように笑った。
「それ、逆だろ?」
「?」
司の左手が俺の右手を掬って、反対の手がポケットから取り出した何かを俺の掌へと置いた。
「お前が居なきゃ幸せになれないんだよ」
「え…………これって………」
掌で転がったのは一本の鍵。
見覚えある。これ、司の家の………。
「俺と一緒に住まないか?」
「一緒に…………いいの?俺、料理とかも全然下手だし、家事だってそんな得意じゃないし……」
「ふっ、いいだけ居座っといて今更だな」
「でも、だって………」
「俺はただ毎日お前がいる家に帰りたいだけだ。料理が下手でも家事が得意じゃなくても、“おかえり”と迎えてくれるならそれでいい」
いつまでも閉じない俺の手を司の大きな手が包み込んでいく。
「………言いたくないか?」
「い、言いたい!毎日アンタの事迎えたい!料理も練習するし、家事だって頑張る!司が帰りたくなるような家にする!絶対!だから……だから………毎日“ただいま”って言ってほしい」
握り締めた鍵は少し温かくて、もしかしたらずっとポケットの中で握りしめてたのかな。
想いが通じれば、番になれば、終わりなんだと思ってた。
けど現実は全然足りなくて、もっと、もっとと欲張りになるばかり。
欲に際限なんてない。
いつまでもアンタが幸せでありますようにと、俺は一生願い続けるんだ。
「言う、何度でもな」
――誰よりも近い場所で。
【After END】
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