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SS_風邪1
side ×××
広く冷たいベッドに横たわりながら、やってしまったと溜息が零れた。
手の中にあるスマホの画面には郁弥くんからの「しっかり寝て、お大事にしてくださいね」と言うメッセージが映し出されている。
日付は二日前。
その日、朝からあった倦怠感に気付いていたものの特に気にするでも無く僕はいつも通りの日常過ごした。
朝見送った郁弥くんは触れた僕の手の熱さに些か心配の表情を浮かべていてくれたけれど、それにも大丈夫だと返して。
だけど赴いた職場では失敗の連続で、呆れ果てた藍澤くんに無理矢理検温された挙げ句「さっさと帰れ」と追い返された。
いつも通り店に来ていた郁弥くんにも「ちゃんと休んでください」と念を押されて渋々帰った僕は、思いの外熱が高かったようで着替える気力もなくベッドに倒れ込んだ。
お見舞いに行ってもいいですか、と連絡をくれた郁弥くんに移してしまうから気持ちだけと返した僕。
今映っているメッセージはそれに対しての返答だ。
二日経った今も熱は下がらない。むしろ悪化しているような気さえがする。
原因は明白。
「…………寒い。寂しい。会いたいな……」
元々人肌がないと眠れない体質だった。
最近は尚のこと。郁弥くんと一緒に眠ることに慣れたしまった身体は温もりを探して浅い眠りを繰り返すだけ。
熱とまともに眠れていないせいで頭がぼーっとする。
お見舞い、来てもらえば良かったかな……。いやでも移したくないし。
眠らないと。早く治して、郁弥くんに会いたい。
ずっとそんな事ばかり繰り返し考える。
そうして浅い眠りに就いて、目覚めた時の冷たい空間に寂しくなる。
風邪を引いて心細くなるなんて、まるで子供みたい。
「……笑われちゃうな、こんなんじゃ」
スマホで確認した時刻は二十三時。
道理で部屋が暗いわけだ。
横たわっていた身体を起こしてベッドを抜け出し、キッチンへと向かう。
今日はまだ何も胃に入れていない。
何か、何でもいいからお腹に入れて薬飲まないと……。
着替えも……汗で気持ち悪い……。
ぐるぐると纏まらない思考は回り続けて、そのうち平衡感覚も回り始める。
「……っ………どうせ眠れないなら」
一層の事、意識でも飛ばせたら楽なのに。
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