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SS_風邪2

変な方向へと落ちていく意識を呼び戻したのは、不意に鳴ったインターフォン。 普段なら無視するところだけれど、こんな時間の来訪者に淡い期待が頭を掠めた。 もしかして……。 はやる気持ちはフラフラで覚束ない僕の足へ賢明に動かせと命じたようだ。 それでなくとも浅かった息遣い。玄関に辿り着くまでに何度咳き込んだことか。 だけど不思議と辛くなかった。それよりも淡い期待が胸を締め付けていたから。 震える手で掴んだドアノブをゆっくりと押し込んで、恐る恐るその先の景色を覗いた。 期待には裏切られず愛おしく待ち望んだ郁弥くんの姿がそこにある。 来ちゃダメだって言ったのに。こんな遅い時間に一人じゃ危ないよ。 言いたい事は尽きないのに、どれも言葉にならない。 「こんばんは、いきなりごめんなさい。そのやっぱり心配で……寝て、ましたよね?これもし良かったら……」 音を立てて差し出されたビニール袋。隙間から見えるのはゼリーやら飲料水だ。 お見舞い来てくれたんだ……。 「…………」 「えっとこのゼリー僕のオススメで、美味しくて……」 「…………」 「ふ、フルーツがゴロゴロ入ってるんです。その…………お、怒ってますか……?いきなり押しかけてしまったこと」 僕を恐る恐る窺い見るその目さえ愛おしくて堪らない。 「…………」 「?…………あの、長谷さ――わぁっ!」 本当はありがとうって受け取って、タクシーでも呼んであげるのが正解だ。 分かっているのに僕の腕は、意に反して郁弥くんの身体を抱き竦めていた。 「は、長谷さん……?」 「……たかった…………会いたかった」 「……はい、僕もです」 優しく温もりが背中に回ってきて、ぎゅうっと距離が縮まった気がした。 「長谷さんまだ熱高いですか?身体熱いです」 ああ、そうだ。 僕すごく汗掻いてるから早く離れてあげないと。 だけど僕なんかより郁弥くんの方が全然温かい。安心する。心地良い。 「大丈夫ですか?早くベッドに……って長谷さん?あれ?」 「郁弥くん……僕は……」 「わっ、待ってください!こ、こんな所で寝てしまったら僕じゃ運べな――」 「僕は……君が居ないと…………」 ああ、やっと眠れる。 ここが僕の安心出来る場所なんだ……。

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