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SS_風邪4

珍しく甘えたな郁弥くんは、胸元に擦り寄って僕を見上げた。 ああ、病み上がりなのが惜しい。今すぐにキスしたくなる。 「うん、いいよ」 「ありがとうございます。ふふ、久し振りの長谷さんだ」 そんなに嬉しそうな顔されたら、理性が試されてるとしか思えない。可愛すぎるな、本当。 「……寂しかった?」 「……はい。ダメですね、僕。いつからこんな欲張りになったんだろう」 自嘲気味に笑った彼の頭を撫でて、そんな事はないと笑い掛ける。 「僕も寂しかったよ。たった二日なのにね」 「本当ですよね。たった二日なのに」 何処からともなく目を合わせて僕らは笑い合う。 「郁弥くんに一つお願いがあるんだけど」 少し前から考えていた事がある。 番になって十分に満たされたと思っていたけれど、僕も大概欲張りなものだ。 「何でしょうか?お粥なら任せてください!」 「ふふ、それは後でいただこうかな。あのね、僕と一緒に住みませんか?」 「…………え?」 「ここに住むでもいいし、二人で新しい場所を探すでもいい。だから、僕と一緒に暮らしてくれませんか?」 「え……ぼ、僕は嬉しいです!けど、長谷さんは良いんですか?何となくそう言うのは苦手なのかなって……勝手になんですけど踏み込んじゃいけない気がしていて」 本当によく見ていると言うか、顔色を窺うのが上手いと言うか。郁弥くんには全部お見通しだなぁ。 「うん、確かに。どちらかと言えばこう言うの苦手なタイプだったかも。だけどね、もう僕は君が居ないと安心出来ないんだ。郁弥くんが傍に居てくれないと一人で眠る事さえ出来ない」 項に残る噛み跡へ指先を滑らせれば、腕の中の身体は微かに身動ぐ。 「もっとずっと傍に居てほしいんだ」 「…………」 「ごめんね、僕の方が欲張りで」 ふるふると大きく振り被った郁弥くんは「嬉しい」と綻んだ。 「長谷さんが僕なんかで安心出来るって言ってくれるなら、僕も欲張りたい。毎日同じ家に帰りたいです」 「はは、じゃあこれからももっといっぱい欲張っていこうか。二人でね」 【END】

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