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SS_独占欲4
「ふふ、長谷さんの髪ふわふわで撫で心地良いです」
「……今度は犬扱い?」
「あ、す、すみません……」
「ううん、怒ってないし郁弥くんにならどう扱われても構わないよ。でもね」
言葉を切った長谷さんは肩口から顔を上げると、僕の項へと唇を寄せた。
「……っ……………長谷さ、ん……?」
「君自身の事は適当に扱ったらダメだよ。もっと周りを警戒して。簡単に触れさせたりしないで。お願いだから僕だけにして。ね?」
「は、はい……長谷さんだけ、長谷さんだけです!」
「本当?」
噛み跡をイタズラに滑る指先に身を捩りながらもコクコクと大きく頷く。
「約束だよ?」
「や、くそく、です……」
ここまでがつい先日の出来事なんだけれど、長谷さんが怒ってるのは多分今朝の事で……。
仕事の日、朝は僕の方が早く家を出る。長谷さんは夕方からのお仕事だから寝ていても大丈夫なんだけど、僕に合わせて起きてくれる。と言うか目が覚めてしまうらしい。
人肌がないと眠れない長谷さんは一人のベッドが寒いと言っていた。
今朝もいつも通り一緒に起きて、それから朝食を取った。
いつもと変わらないそんな始まり。
「今日はペットボトル捨てる日だっけ?」
「はい、そうですね。長谷さん、僕が出る時捨てておきますから」
「だーめ。下まで見送りするから、一緒に捨てに行こうね」
最近少しだけ変わったことがある。
きっかけは言わずもがなあの一件で、朝は長谷さんが下のエントランスまで見送ってくれるようになった。
同じマンション、しかも隣人なら会う確率が高いから心配なんだと長谷さんは言う。
そんなに心配しなくてもと最初は断ったけれど「さすがに一日中傍にいて守ってあげることは出来ないけど、せめて手の届く範囲では守らせて」なんて言われてしまったら、僕は素直に頷くしか出来ない。
身支度を整えて玄関へ。
ゴミの袋は長谷さんが持ってくれたので、ドアノブには僕が手を伸ばす。
ドアの縁を潜りながら、そう言えばキッチンに一本だけ置いてあったあのペットボトルは回収してもらえただろうかと思い出した。
「長谷さん、キッチンに――……え?」
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