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SS_独占欲8
郁弥くんの隣に座る陽翔くんからの冷ややかな眼差しが、涙の原因が僕であると語っている。
「え、郁弥くん……?あの……」
僕は一体何をしてしまったんだろう……。無意識に彼を傷付ける言葉でも言ってしまったのか?
いくら呼び掛けても郁弥くんの目からはポロポロと涙が落ちて、視線は僕に向けられているはずなのに何の反応もない。
「郁弥くん?ごめんね?僕が何かしてしまったんだよね?ごめん、お願いだから泣かないで……」
「……………」
「郁弥くん…………」
「…………帰ります」
唐突に口を開いた彼は流れる涙もそのままにフラフラと店の出入口へと向かっていく。
「え、ちょっと待っ――」
僕の呼び止める声なんてまるで届いていなくて、ドアは無情にも郁弥くんの姿を飲み込んでいった。
「長谷さん、サイテー」
「え、僕何かしちゃった……?」
「サイテー」
陽翔くんはサイテーだと言葉を繰り返すだけで、教えてくれる気はないらしい。
「……らしくないな」
「…………」
「何に苛立ってるんだかは知らないが、それで大切な奴傷付けてたら世話ない」
返す言葉もない僕に藍澤くんは空いてる右手を差し出した。
「追い掛けてやれよ、様子も変だったしな」
「…………ありがとう」
持っていたグラスを藍澤くんへ手渡して、僕はカウンターを抜け、郁弥くんと同じようにドアを潜る。
まだそう遠くへは行ってないはずだ。
案の定少し走ったところでフラフラと歩く背中を見つけた。
「――郁弥くん!」
人の目なんて構わず大声で呼び掛けてみるも、彼は振り返ってくれない。
「待って、郁弥くん!待って!」
すぐに追い付いた背中へ手を伸ばした瞬間、それは拒絶の言葉と共に振り払われてしまった。
「――やっ!」
「――!」
「や、嫌です……ごめなさ……、ごめんなさい……」
振り返り様よろめいた郁弥くんは、その場に小さく丸くしゃがみ込んだ。
「郁弥くん……?」
「……めなさい……ごめんなさい……静かにします……っ、……ぅるさく、しません……ごめんなさい……」
「…………」
これは……。
「殴らないで、ください……ごめんなさい……っ、……ぅう………めなさぃ……っ」
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