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SS_独占欲9

小きざみに震える背中に触れようとして伸ばした手を寸前で止める。 余計に怖がらせてしまう気がして。 「うっ……うぅ……ぁ……」 「…………郁弥くん」 手を伸ばす代わりに僕は彼の傍らで同じように小さくしゃがみ込んで、出来るだけ優しく名前を呼んだ。 「郁弥くん、大丈夫だから。ゆっくり顔上げてごらん」 「や、痛いの、嫌です……」 「痛くないよ、大丈夫」 「ほんと……?」 「本当」 ほんの少しの沈黙の後、恐る恐る郁弥くんは顔を上げて、涙に濡れた瞳を僕へと向けてくれる。 「僕は郁弥くんのことが大好きだから、痛いことはしないよ。ね?」 「ぁ………長、谷さん……?」 「うん」 「あ、僕…………なんか、混乱して、その……ごめんなさい!」 どうやら僕だと認識した郁弥くんは、正気を取り戻してくれたらしい。 「いいんだ。きっかけはきっと僕なんだし、郁弥くんが謝ることはないよ」 「でも…………って長谷さんその格好……」 目を丸くする郁弥くんを見て、そう言えば仕事着のまま出てきてしまったんだと思い出した。 「ああ、仕事抜け出してきちゃった」 「え!?そんな、じゃあ急いで戻らないと!」 慌てる郁弥くんに良いんだと告げて、その身体を抱えあげる。 「藍澤くんが居るし店は大丈夫だよ。それに今戻ったら陽翔くんにお説教されそうだし。それはまた今度甘んじて受けるとするよ。今日はこのまま一緒に帰りたい」 「…………はい。でも、あの恥ずかしいので、出来れば自分で歩きたいです……」 「うーん……それはだめ」 「え!?」 「家までこのままでーす。大人しくしててね」 言うほど遅い時間じゃない事と僕の服装も相まってか、周囲の視線をチラホラと感じる。横抱きにした郁弥くんは耳まで真っ赤にして両手で顔を覆ってしまった。 ごめんね、僕は独占欲が強いから。 この視線にも喜んでしまうよ。君を僕のものだって自慢してる気分だ。 「…………郁弥くん、話したくないかもしれないけれど今後の為にも教えてほしい。一体何が引き金だったのかな?」 「…………溜息と舌打ちが聞こえたら殴る合図だったんです。だから、その……」 「そっか。ごめんね、これからは気を付けるようにするから。ちょっと大人げなかったよ、僕も」 「大人げ?」 「隣人に嫉妬しすぎたって事。ああ、でも郁弥くんには申し訳ないけど近々引っ越そうと思うから、ちゃんと付いてきてくれるかな?」 「はい、喜んで」 【SS_独占欲END】

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