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官憲に拘束されたらどんな苦痛を受けても黙秘を貫くつもりだった。どんな恫喝や暴力が待っているのか、変な期待すらしていた。
それなのに、大木戸と名乗ったあの捜査員は白根を取調室に閉じ込めたまま一時間に一度くらいぼそりと話し掛けるだけで、あとは書類を読んでいるか白根の顔を眺めているだけだった。これには立ち会いの職員も辟易としているようで、数時間で職員が入れ替わっていた。
黙っているのは精神力でなんとかなったが、大木戸に見つめられているのは耐えがたかった。学生みたいな顔はよく見るとやはり皺や翳があって白根よりもずっと年長であるのがわかった。その目は穏やかなのに鋭い光があり、服を一枚ずつ脱がされ丸裸にされて躰の奥まで見透かされているような気がした。
それでもどうにか一週間が経過した。
「煙草吸うかい?」
「……」
「吸うわけないね」
大木戸は紺地に鳩が描かれた箱から煙草を一本取りだした。狭い取調室に甘い香りが漂う。
「……山田は黙秘してるけど、女の子たちは話してくれたよ」
「……」
「まあ、何も知らないと言うだけなんだけどね」
まあそうだろう。彼女たちは段ボール箱が押し入れに入っているのを見ただけなのだから。
「君も誰かから預かっただけで何も知らなかったんだろう?」
「……」
「中身を知らなかったと認めて預けた奴の名前を言ってくれれば、こちらも送検はしないんだけどなあ」
「……」
大木戸は椅子に座り直して真っ直ぐに白根を見た。
「君があの箱の中身を知らなかったというのは明白なんだ。我々が踏み込んだとき、君はあれを外に投げ捨てようとしただろう。中身がダイナマイトだと知っていればそんなことは絶対にするわけがない。爆発するからね」
「……」
「俺は上司にこのことを伝えたんだけど、それはお前の印象だろうと一蹴されたよ。君が箱を外に投げようとした証拠も無いと。確かにそうだよな。運の悪いことに、君の行動を見たのは俺だけなんだ」
「……」
白根はうつむいたまま奥歯を噛み締めた。大木戸は深く息をついた。
「君を監視し過ぎて情が移っちゃったかな」
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