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書類送検が決まり白根は保釈された。食事もろくに取らず痩せてしまったが、黙秘をやり通した達成感はあった。その一方でダイナマイトを手に入れるようなことをして組織はなにを始めるのか疑問をおぼえていた。
松岡と躰の関係はあっても白根はいち構成員に過ぎず、最近頻繁に行われているらしい幹部の打ち合わせにはもちろん参加していないが、官憲の取り締まりのせいで集会はおろかビラ配りすら碌に行えず閉塞感が漂っていて、それを打開するために過激な行動を起こしそうな雰囲気があり、松岡の論文も様子が変わっていた。
自分が下っ端であるという自覚は持っているが、ダイナマイトをそれと言わずに預けた松岡にも不信感が生まれた。もしそれと知っていれば、山田も自分ももう少し上手く立ち回れたかも知れないのにともやもやした感情が胸に溜まっていった。
庁舎を出ようとしたとき、ロビーにいたワンピース姿の女が駆け寄ってきた。
敬子だった。
敬子のお腹はそれとわかるくらいに膨らんでいた。
「いつ頃生まれるの」
「十二月……多分年末かな」
敬子が外を歩きたいと言うので、ふたりは日比谷公園までやって来た。昼下がりの公園は汗ばむ陽気だったが、多くの人がいて被疑者扱いの白根もその中に溶け込んでいった。
「……手紙、竹中さんに送ったけど読んでくれた」
「お母さんがもう長くないって……」
「そうよ」
敬子がゆっくりと歩くので、白根ももどかしくなりながら合わせた。
「お母さん、死んだよ」
「……」
「もう、四十九日も終わった」
自分が帰ったときに旅館の灯が消えていたのはやはり忌中だったからであったかと白根は目を伏せて深く息を吐いた。
「あんた、いつまでこんなことしてるの」
「……」
「お父さんはあんたが大学に行くのを賛成してた手前なにも言わないけどさ、革命だかなんだかわからないくだらないことをさせるために東京へ行かせたわけじゃないよ。おまけに卒業しないで勝手に辞めちゃって。お父さんだって持病があるのになんとか頑張ってるけど、あたしは泰が帰らないならもう旅館は畳みなさいって言ってるのよ」
敬子の声は震えていた。
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