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二日続けて大木戸が現れたので、白根はいい加減うんざりした態度を隠せなかった。
「連日悪いねえ。一応、忙しくなさそうな時間に来たつもりなんだが」
「今日はなんですか」
「この旅館、使ってない離れがあるんだって?見せて欲しいな」
「……誰から聞いたんですか」
「早苗ちゃん」
名前まで訊きだしていたのか。腹立たしいが、白根はしぶしぶ応じた。
「雨漏りがひどくて修繕の手配中だから、宿泊させてないだけなんですけどね」
「早苗ちゃんも言ってたよ。いいじゃないか、減るものじゃなし」
離れは本館の裏手にあるが、ゆっくり歩いても二分ほどの距離である。平屋で二組を泊めることができ、年が明けたら防水工事を行う予定である。
鍵を開けると、大木戸は遠慮する様子もなく上がり込んで次々と戸を開けていく。
「随分広い内風呂だねえ」
「うちでは一番良い部屋ですから」
客間は十二畳と広めである。大木戸は初見の宿泊客みたいに押入を開けたり掛け軸を眺めている。
「きれいな部屋じゃないか。どこに雨漏りがあるんだい」
「窓の脇です。大きな染みがあるでしょ」
なんの隠し事をしている訳でもない。本当にこの部屋は雨漏りのために人を泊めていないだけなのだ。しかし、大木戸はここに松岡が潜伏していると睨んでいるらしい。
「君の山越え説ね、信憑性があるってことで地元警察も巻き込んで聞き込みしているんだけど、それらしい目撃情報が無いんだよ」
「やっぱりヒッチハイクしたんじゃないですか」
白根は一応「自説」にこだわってみせる。
「それね、俺の上司が興味を示して、乗せるならトラック運転手だろうって、地元警察と二十人くらいで付近のドライブインで聞き込みしたり運送会社に手配書回したんだけど、収穫なし」
官憲を欺くのは痛快なはずなのに、根も葉もない妄言で多くの人を振り回しているという罪悪感に駆られる。
「大人数出したから上は引っ込みつかなくなってるけど、俺はやっぱりこの近辺にいると睨んでる。だから最有力候補がこの旅館なんだよ」
「……」
大木戸は白根に背を向け、壁をべたべた触りだした。
「なにやってるんですか」
「仕掛けがないかと思って。こう、壁がクルッと……」
「うちは忍者屋敷じゃありません」
ふざけてるのかと呆れながら、床の間に置かれた花瓶が視界に入った。普段なら華道の心得があるスミが花を生けてくれるのだが、客がいないのでそれもしていない。工事の日程が組めたら片付けるつもりで、まだ放ってあった。すっきりした造形だが、厚手の陶器で重みがある。
……これで大木戸の後頭部を思いきり殴ったら、せめて昏倒させることはできるだろうか。失神してくれれば、あとは頸を締めて……体格差があるから、手で絞めるのは難しいだろうか。浴衣の帯が残っているかもしれない……何分間絞めれば絶命するのだろう?……
「白根くん、怖い顔になってるよ」
我に返ると、大木戸の顔がすぐ近くにあった。
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