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 昼過ぎまで白根が姿を見せなかったので松岡はじりじりしていたようだが、白根がスコップを片手に登山用のザックを背負った姿で声をかけると機嫌を直した。  ふたりは勝手口から外に出て人の気配がないことを確認しながらあらかじめ停めておいたバンに乗り込んだ。車は村中が眠りこんでいるかのような小春日和の道を走り、カーブを幾つも曲がって坂の中腹で停まった。車道の左側に舗装もされていない道があって山の奥へ続いている。 「どれくらいかかるんだ?」  車を降りた松岡が訊ねた。 「二十分くらい」  急な登り坂が続いた。木々の葉はすでに落ちていて日光がもろに差すため暑いくらいの陽気だった。閉じ籠もっていたせいで躰がなまってしまったのか松岡は息を切らしていたが、執念でついてきているようだった。  山道から外れ枯草の積もったところをしばらく進むと、急に視界がひらけて小さな野原のようになっている場所にたどりついた。白根は下を向いてしばらく歩き回っていたが、ここと見込みをつけるとザックを置いてスコップで土を掘り返し始めた。なかなか手応えがないので、深く埋めた記憶がありながらも白根は不安になった。汗だくになり上着を脱いでさらに掘り進めると、ようやくスコップの先が固いものに触れた。はやる気持ちを抑えて丁寧に周りの土をどけると、トランク型の旅行鞄であることがわかった。 「これだ」  引き上げて土を払い錆びついた金具を苦労して外し蓋を開けると、内部は黴も生えておらず予想外に状態がよかった。松岡が厳重にくるんだ油紙を取りのけると、武骨な軍用銃が現れた。真っ黒で曲線というものは一切無く、量産化のために極限まで簡素さを追求したような形態であった。 「随分年季が入ってるみたいだけど」 「まあな。しかし中国で造られた正規品だ。北村知ってるだろ?補給部の。あいつ銃マニアだから一緒に購入の交渉に入ってもらったんだ。あいつがいなかったら粗悪品を掴まされるところだったな。ヤクザ相手に蘊蓄傾けて大変な度胸だよ」  松岡はやはり油紙に包まれた直方体のものを取り出した。油紙を剥ぐと粗悪な紙製の箱が出てきて、蓋を開けると鈍く光る弾丸が並んでいた。慣れた手つきで弾を装填すると、松岡は晴れた空に銃を向けた。  破裂音が響いた。  わずかな煙が銃口のまわりを漂った。 「白根」  松岡は右手に銃を握ったまま左手で白根の肩を抱き、喰いつくように接吻した。舌が抜けそうなほどに吸われ、白根は思わず声を漏らした。 「お前も銃も渡さない」  耳元に囁くと、松岡は腕を白根の首に回し銃を頭に突きつけて叫んだ。 「公安さんよ、居るんだろ?」  銃口が向けられていることより、松岡の言葉に白根は驚いた。彼は気付いていたのだ。  岩影から大木戸と二人の警官が出てきた。

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