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6-3
「おいおい、こんなところで口説くのはやめてくれよ。妬けるじゃないか」
大木戸は相変わらず茶化しているが、猛禽類の眼で松岡の動きを探っていた。
松岡は銃を白根の背中に押し付けた。椎骨に銃口が食い込んで鈍い痛みが走る。
「手を降ろせ」
大木戸が目配せすると警官たちは銃を持つ手を下げた。
「銃は地面に置くんだ」
大木戸はやれやれと言わんばかりに肩をすくめ、子供に言いきかせるように呼び掛けた。
「……なあ、銃を携帯した捜査員が十人は山道を登って来ているんだ。人質事件は現行犯として狙撃されることもある。死んじゃうよ、お前」
「だからこその人質だ」
「確かにそうだね。ここじゃ狙撃できないな」
松岡は白根に躰を密着させていた。ふたりは背格好があまり変わらないので、松岡だけを狙い撃ちするのは少なくともこの山の中では困難だろう。
「白根、車のキーを寄越せ」
言われるがままに白根はポケットからバンのキーを取り出したが、手が震えて前方へ取り落としてしまった。
「拾え」
頸元の縛めが解かれる。白根はかがみ込んでキーを拾い、息を深く吸い込んだ。
「どうした?」
白根は横ざまに松岡の膝の古傷を狙って飛びついた。
「……っ!」
松岡は顔を顰めバランスを崩した。その隙に白根が松岡の右手にかじりつき拳銃に手を伸ばす。舌打ちしながら松岡は白根の手を振りほどこうとする。
「白根くん、やめるんだ!」
大木戸が声を振り絞って叫び、駆け出す姿が視界の隅に映った。
銃声が響く。
白根はふくらはぎに焼けつくような熱を感じた。
その瞬間、大木戸の拳が松岡の顔を殴っていた。松岡は顎を押さえながらよろめき、巡査に羽交い締めにされた。白根はもうひとりの警官によって松岡から引き離された。
「救急車を呼びますから、頑張って」
警官が声を掛ける。何を言っているんだろうと思って脚を見ると、鮮血が服を赤く染め、脚をつたってズボンの裾から流れ出ていた。それを見た途端に疼痛がじわじわと広がり、白根は呻いた。若い警官は大腿部を布で締め上げて止血を試みていた。
松岡は手錠を掛けられ目を閉じていた。
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