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 白根は町の総合病院に搬送された。  ふくらはぎに銃弾が残っていて、手術で取り除かなくてはならなかった。そのまま入院し、病室で初めて見る捜査員から何度も取り調べを受け、弁護士とも話をした。いい加減疲れ果てた頃捜査員は来なくなった。  過ちを認めた白根は旅館を畳むことも考えたが、敬子とスミが見舞に来て自分たちに任せてきちんと罪を償いなさいという勧めに従うことにした。敬子の夫も手伝ってくれているという。はじめは舅姑の反対があったそうだが、二三日すると何も言わなくなったらしい。四つになる長男の修太郎も洗濯物を運んだりして手伝いの真似事をしているそうだ。  暴力団からの拳銃購入からの人質事件と航空機強取計画が大々的に報道されてしまったこともあり、白根のもとには疎遠になっていた友人が見舞にあらわれた。地方の工場に就職し組合活動を牽引している山田や、白根が退学を考えているときに慰留してくれた助教授も来てくれて、退屈どころでは無く、あっという間に一週間以上が過ぎてしまった。  珍しく午前中の来客がなかったある日、昼食の皿を下げてもらいうとうとしていたところに、大木戸が訪ねてきた。  慌てて起き上がると、彼は寝てて良いのにと苦笑した。非番なのかいつもとは感じの違う英国紳士然とした服装をしていたが、背が高いせいか妙に似合っていた。 「ちょっと派手にやり過ぎたせいで流石の俺も上から相当絞られてね。つい殴っちゃったからなあ」  相変わらずの軽口だったが、顔にはすこし疲労の色があった。大木戸は椅子に座って胸ポケットから濃紺の箱を取り出した。 「ここは禁煙です」 「ああそうか」  大木戸はきまり悪そうに箱をしまった。この男は以前からピースを吸っていたのかなと白根はぼんやり考えた。 「松岡はどうしてますか」 「ずっと黙秘しているよ」  何時間も言葉を発しないまま取調室で向かい合っているふたりの男の姿が脳裏に浮かんだ。 「でも、証拠も揃ってしまってるからな。例のヤクザにも面通ししたし、君の証言もある。他の仲間も逮捕されて、自白してる奴もいるからなあ」  松岡の逮捕と前後して、青年革命連合の同志たちは次々に検挙された。中には海外亡命の資金を得るために銀行強盗の計画を立てている者もいた。青年革命連合はほぼ壊滅状態だった。 「君も起訴されるんだろう」  白根は頷いた。 「仕方ないです。拳銃だとわかっていて隠蔽したんですから。旅館はどうにかなりそうですし、懲役刑になっても控訴はしません」 「まあ、初犯のようなものだし、君のお蔭で捜査が進んだから、反省の態度が認められるよ。執行猶予がつくんじゃないかな」 「そうですかね……」

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