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出生

アルバンはシングルマザーの家庭で育った。 母親は仕事人間だったが、仕事と同じように、アルバンにも十分に愛情を注いだ。 彼女なりに思うところもあったのだろう。 半分は別の血が流れている子どもを産み、自責の念に駆られていたのかもしれない。 アルバンの見た目から彼に異国の血が流れているのは明らかだったが、その血が特殊なものであることは、本人も、母親に聞かされるまで知らなかった。 彼自身、その話を母親から聞かされたとき、母は気が触れてしまったのかと思った。 しかし、しごく真面目な顔で話しをする母親に、それが事実なのだと思わざるを得なかった。 実際、そう思わざるを得ない出来事が彼にはいくつもあった。 アルバンの母親・早紀(さき)がドイツへ短期の語学留学へ行ったとき、彼女はアルベルトというドイツ人と恋に落ちた。 ただ彼女の留学期間は3ヶ月。 一時の恋と割り切れない程、アルベルトのことを愛してしまった早紀は、彼からの告白を断った。 このまま仲の良い友人として付き合っていきましょうと。 アルベルトは早紀の意思を尊重し、二人は早紀の帰国の日まで本当に仲の良い友人として大切な時間を過ごした。 彼女が起きている間は。 寝付きの良い早紀だったが、アルベルトの告白を断った日から、毎晩彼の夢を見るようになった。 夢の中のアルベルトは情熱的だった。 現実の彼は優しく穏やかであったのに対し、夢の中の彼は激しく早紀に愛を求めた。 そして早紀も、夢の中ならばと現実では言えない彼への言葉を、思いを、溢れるほど伝えた。 夢の中で二人が一線を越えるのに時間はかからなかった。 しかし、夢でアルベルトと愛し合えば愛し合うほど、早紀は現実にも彼を求めそうになっていく自分に気づいた。 このままではダメだと思った早紀は、本来予定していた帰国日より1週間早く日本へ帰国した。 もちろん、そのことをアルベルトには伝えずに。 帰国から3ヶ月が過ぎたある日、早紀は突然体調不良に見舞われた。 かかりつけ医へ行ったところ、産科を受診するように言われた彼女は困惑した。 彼女は2年前に恋人と別れてから、そういった行為は一切やっていなかったからだ。 子どもを宿す要因を見つけられないまま、とりあえずかかりつけ医の言う通り、早紀は産科へ向かった。 そこでも医師からは妊娠を告知された。 何がなんだか分からないまま帰宅した彼女は、暗い部屋の中、腹部を撫でながらふと思った。 まさか、お腹の子はアルベルトとの子では、と。 何度も頭を振ってその考えを思考から追い出そうと試みた。 あれは夢、夢の中での行為、現実ではキスすらしていない、けど……。 早紀にはそれしか浮かばなかった。 一瞬、現実でも彼と愛を交わしていたのでは、と思った彼女だったが、それは絶対になかった。 アルベルトは早紀への告白以降、夕刻の鐘の音とともに必ずさよならの挨拶をしていたからだ。 結局、早紀はお腹の子の父親が分からないまま臨月を迎えた。 そして出産予定日の前日。 早紀は再びアルベルトの夢を見た。 夢に現れたアルベルトは、現実の彼とも今まで夢に見た彼でもなかった。 妖艶に笑い、ひとつ口づけをして囁いた。 『君は私に縛られて生きていくんだ、……私と同じように』 早紀は目を覚ますと同時に陣痛に見舞われ、そのまま病院へ。 初産であったが6時間ほどで出産。 産まれ出た子どもを見て、早紀は茫然とすると同時に言い得ぬ喜びを感じた。 「馬込さん、頑張りましたね。見て下さい、可愛い男の子ですよ」 子どもの左腕に、アルベルトと同じ三角の赤痣を見つけて。

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