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追憶・上(R-18)

「うん、分かってるよ。…うん、うん。じゃ、気をつけて。…うん、いってらっしゃい」 突然の母さんの電話にヒヤリとした。 海外出張に行くと言っていたが、昔から勘のいい人だ。 もしかしたら、俺がしていると思って電話したのかもしれない。 まぁ、だからと言って何かできるわけでもないし、もう遅い。 スマホをナイトテーブルに置き、ベットに眠る愛おしい彼を見れば、微かに笑い、スヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。 思わず、彼の日光に少し焼けた髪に、そっと指を差し込む。 一昨日、夜の街をぶらついていたら、風来を見つけた。 数人の友人達と飲み出かけていたのだろう。 ほろ酔い気分の彼らは、酔っ払い特有の戯れで互いに肩を抱き合っていた。 風来の夢に侵入するようになって、彼が俺を意識するようになったのは良かったが、現実ではかなり避けられるようになっていた。 だから、風来が彼らに心許し、楽しそうな表情をしていることに苛立った。 そして決定的だったのが、俺が風来の(うなじ)にこっそりと付けた痕に気付いた一人が、それを、俺の、風来への愛の証を、舐め上げたのだ!! 怒りのまま行った夢で行為は最低のものだったが、その反面、自分の心が満ち足りたのも事実だった。 髪への愛撫をしながら彼の寝顔を見れば、あれだけ情事にふけったにも関わらず、あの時のように清らかだ。 自分でも口角が上がるのが分かる。 「……Schlaf gut」 ***** アルバンは、子どもの頃からとはどこか違っていた。 夜の蛍光灯に群がる虫のように、アルバンには他人が寄ってくる。 彼らの目はいつも何処か惚けたようで、アルバンが甘い言葉ひとつかければ眠りにつき、アルバンと欲に交われば堕ちていった。 だからだろう。 アルバンは母親の話をにわかに信じられないと思いつつも、あぁコレで合点が入ったとも思った。 何故、他人が寄ってくるのか。 何故、他人の夢に侵入できるのか。 何故、他人を組み敷いているのか。 それでも、特殊な体質が表れた当初は、彼も戸惑いが大きかった 精通した頃は、毎夜性欲にうなされ、毎日のように自慰しなければ狂ってしまいそうだった。 またそれに合わせるかのように、彼の周囲の態度があからさまに変わった。 媚びるように、纏わりつくように、執拗に向ける欲。 そして、アルバンが中一の時、彼は襲われた。 夏期講習からの帰宅途中、近道をしようと公園に足を踏み入れると、突然草むらに引き込まれたアルバン。 まだ身体が小さかった彼は、女二人に簡単に押さえ込まれ、そこからはあっという間だった。 気づいた時には脱童貞。 恐怖で震える彼の上で、恍惚とした顔の女が腰を振っていた。 幸いスキンを付けられての行為だったが、両手を押さえられ変わるがわる跨る女二人に、13歳のアルバンはなす術もなかった。 早く終わってくれ。 そう思いながら女達の行為を甘受していたアルバンだったが、彼の上で腰を振っていた女が突然ぱたりと倒れた。 見ると倒れた女は悦に浸るように寝息を立てていた。 俺は何が起こったか分からなかった。 そんな俺とは対照的に、もう一人の女が倒れた女を俺から引き剥がし、すぐに腰を落とした。 ただ、その女もしばらく腰を動かしたら、さっきの女と同じように倒れた。 よく分からないままその場から慌てて逃げたアルバンは、家に帰りつくと自分の身体の変化に気づいた。 出しても出しても湧き出ていた性欲がぴたりと治まり、次の日外へ出れば、あれだけ向けられていた他人からの嫌らしい欲も落ち着いていたのだ。 彼にとって記憶から消し去りたい出来事だったが、それがもたらしたのは安息だった。 そしてこの出来事は、アルバンのもう一つの潜在能力も目覚めさせた。 人の、特に彼に好意のある人間の、夢に入り込み夢の中の本人達を自由に操れる力。 この奇妙な力がまたアルバンを苦しめた。 普段は彼の意思で動く力なのだが、性欲が溜まりだすと強制的に他人の夢の中で目を覚ましてしまう。 そんな時に見る他人の夢は、アルバンにとって最悪なものだった。 夢の中の彼女もくは彼らは、自身の欲望に忠実で、現れたアルバンを見るなり目を恍惚とさせ、貪るように求めてきた。 彼を襲ったあの女達のように。 もちろん本人達の思い通りにはさせないが、現実の世界より強く生々しい人間の様に、アルバンは吐き気を覚えた。 それ以来、彼は性欲を治め妙な夢に落ち込まないようにするため、定期的に他人とセックスをするようになっていった。 実世界でのセックスは相手の理性が残っていることもあり、夢の中より比較的落ち着いたセックスができた。 また不思議なもので、始めは嫌々ながらだったセックスも、慣れなのか生粋のものなのか、それなりに楽しくもなっていった。 そんな爛れた日常が当たり前になって数年。 女子より小さく可愛い顔立ちだった純粋な中学生も、気づけば大学生。 異国の血が色濃く出ている見た目と独特の色香を持ったアルバンは、純粋とは程遠い青年になっていた。

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