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夢想・上
風来は、深緑の草原で寝転がっていた。
目には冴え渡る青が広がり、耳には軽やかな音、そして鮮やかな香りが鼻をくすぐる。
久しぶりの穏やかな寝心地に風来の表情は柔らぐ。
『ふうら』
名前を呼ばれ横を向けば、彼と目が合う。
片肘をつき、風来の方を優しく見つめている美しい君。
『気持ちい?』
聞き馴染みのある声。
風来がこくりと頷けば、彼は手を伸ばし風来の髪を撫でる。
擽ったいような気持ちになった風来がくふくふと笑えば、呼応するように美しい君の口角がゆったりと上がる。
『愛してる』
髪を撫でていた美しい君の指が、ゆっくりと降りていき、風来の唇に触れる。
『愛してるんだ、風来』
風来は特段驚かなかった。
彼の告白が必然であるということは、十分理解していた。
「……そっか」
目線を青空に戻し、風来は目を閉じる。
これは夢、俺の夢、……願望。
だから、自分に都合の良いように見れる。
「俺も、愛してる」
瞳を閉じたまま彼に愛を告げた風来。
風来は分かっていた。
何故、美しい君が自分の夢に現れ、自分と戯れるのか。
そんなことは初めから分かっていたのだ。
彼を愛しているからだ。
いつの間にか、彼を愛してしまっていた風来。
ただ、現実の世界では決っして言わなかった。
純粋に、友人として自分を慕い、時に喧嘩しながらも一緒に笑い合った美しい君への思いが、友愛から情愛に変わったことは。
風来と美しい君との出会いは偶然だった。
ただの通りすがりの人で終わると思っていた風来に対し、彼は違った。
最初の出会いの後、わざわざ風来を訪ねて、感謝と同時に次の約束を提案してきたのだ。
はじめこそ綺麗すぎる彼に気後れしていた風来だったが、見た目と反し気さくで朗らかな彼に気を許すのはあっという間だった。
玉ねぎが苦手でこっそり避ける君。
犬が好きなのにいつも吠えらる君。
本を読み始めるとすぐに周りが見えなくなる君。
どんな彼も愛おしくて仕方がなかった。
一方で、風来の中で恐怖が芽生えた。
いつも他人にうんざりしている美しい君。
冷めた対応をしても、なおすり寄ってくる彼らにほとほと困ったようでもあった。
もし、自分の気持ちが露呈したら、自分も彼らのように美しい君を困らせるのか。
そして、君にうんざりされるのか。
彼と一緒にいたいと思うのに、彼への想いがバレて隣りにいれられなくなるのでは。
風来の恐怖は日々大きく育っていき、それが態度にも表れるようになっていった。
風来が彼の夢を見るようになったのはこの頃だった。
よくよく考えれば分かる事だと風来は自嘲した。
卑猥な夢を見るから彼を避けたのではなく、彼を避けだしたから卑猥な夢を見るようになったのだ。
どんなに彼と距離をとろうと、心が彼を求めていたのだ。
風来は諦め、殊更 ゆっくり目を開けた。
目の前には、風来が大好きな顔。
『Ich liebe dich』
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