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第4話

 繁みから出てきたのは、小さな少年と、そして....。 「レイラ.....」  忘れ得ないエメラルドの瞳が俺を見つめた。柔らかな栗色の髪をした緑色の瞳の少年が、俺に笑いかけた。 「ユーリ、こんばんわ、は?」  彼女は息子に、俺の息子に言った。 「こんばんは」  少年は、俺の息子は母親に言われるままにペコリと頭を下げた。あどけない二つの瞳が俺を見上げる。 「キレイなお姉ちゃん....」  言葉に詰まる俺とレイラにミハイルが苦笑いしながら助け船を出した。 「お兄ちゃん....だよ。坊や」  すると少年は、息子は今度はミハイルを見上げた。 「おじちゃん、おっきい。ライオンさんみたい」 「親子だな、感性が似ている」  ミハイルは俺の耳許でロシア語で囁いた。俺は苦笑しながら、息子の顔をじっと見つめた。 その様子にふむ.....と頷いて、ミハイルが俺達を促した。 「食事にしよう。坊や、おいで」  呆気に取られる俺の目の前でミハイルが息子を、ユーリを肩車してスタスタと歩き出した。 「レイラ?」 「ご招待をいただいたの.....。しばらく前にレヴァントさんに相談があって...手紙を書いたわ」 「彼は?....元気でやってるのか?」 「元気よ。仕事が終わってから来るわ。駅まで迎えに人をやってくださってる」  真面目に仕事に取り組んでいるらしい、それは何よりだ。俺はライトの光に照らされた彼女の顔を見て、眉をひそめた。顔色がひどく悪い。 「ユーリは元気そうだが、君はどうなんだ? 顔色が悪すぎる....」  彼女は目を伏せ、呟くように言った。 「その事で話したいことがあるの。食事が終わったら、少し時間をちょうだい」  俺は黙って頷いた。  食事はいたって和やかに進み....慣れない和食に苦闘する邑妹(ユイメイ)やイリーシャにも、果てはニコライにまでにこにこと話しかけるユーリに誰もが和んだ。 「いい息子だな」  ミハイルが耳許でロシア語で囁いたその一言が俺にはとても嬉しかった。  やがて、俺の身体の持ち主、柳井融も姿を現し、食事が済んだ頃、遠くから花火を打ち上げるドーンという破裂音が聞こえてきた。 「花火だ!」  立ち上がってはしゃぐユーリに、ミハイルが言った。 「融おじちゃんと見ておいで」  ユーリは柳井融の手を取って走り出した。ふたりは、かつての俺と息子はベンチに肩を並べて座り、夜空に開く花を見上げている。かつての俺とレイラのように。俺はふと、レイラに尋ねた。 「おじちゃん?お父さんとは呼ばせないのか?」 「父親はあなたよ、ラウル。彼は、お父さんの双子の弟.....なの。お父さんは死んでしまったけど」  確かに俺は戸籍上死んでいる。間違いではない。だが、外側はどうあれ、俺以外を父と呼ばせないでくれているレイラの気遣いが嬉しかった。 「で、君が話したいことって....」  俺はおそるおそる口を開いた。ミハイル達も席を外して、少し離れたところで、ウォッカを舐め始めていた。  レイラがあの伏し目がちの表情で言った。 「私........癌なの。末期で、ステージ4なの」  俺は言葉を失った。

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