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第3話

「お、はよ」 「…お、おう」 友人達が奇妙な顔をしてこちらを見つめている、俺の顔になんかついてるのか? 心配そうに声を掛けてきて、俺ってそんなにヤバいか?と自分でも不安になってきた。 歩夢と会えない日々は、最初の頃は地獄のようだった。 それは歩夢に無視をされた日々なんかよりも俺の精神を蝕んでいた。 食べなきゃ死ぬと無理矢理味のしないごはんを喉に流し込んで、俺はぽっかり穴が空いた喪失感を抱いていた。 もう歩夢は海外の学校に入学しただろうか、歩夢は可愛いからきっとすぐに友達が出来るだろうな。 徐々に慣れていくんだろう、あの頃の俺はブラコンだったなと笑っていられる日が来るのかな。 寂しい、寂しいな…まるで外に降り注ぐ冷たい雨のように冷たく寂しいものだと感じた。 本当に降っている雨を教室の窓から見つめて、俺の気持ちもジメジメしていた。 重大な事に気付いたのは帰る時だった、それほど今日の俺は上の空だった。 「あ、傘忘れた」 来る時は止んでいたから油断していたな、とはいえ友人達は今日部活だから傘に入れてもらえない。 仕方ない、濡れるのを覚悟で走って帰るかとカバンを頭の上に置いて走り出した。 息を途切れ途切れにさせて、走って走って水溜まりを踏みつけた。 すると近くを通った車に水を掛けられて、びっしょりと制服を濡らす。 もう頭を守る必要がないなと頭の上にあったカバンを下に降ろした。 ザァザァと激しく降る雨音だけが静かな場所で音を奏でていた。 「…本当に、俺はダメな兄ちゃんだな…だからお前にも呆れられるんだ…歩夢」 一歩踏み出そうとすると、フラっと視界がぶれて身体が傾く。 あんな食生活を続けていたら体調不良にもなる、もう限界だったんだ。 でも俺の身体は濡れた地面に投げ出される事はなかった。 俺を支える壁は、何故かとても暖かくて柔らかかった。 「そんな格好で、風邪引くよ」 「…俺は、へい…くしゅ」 「ほら、顔色も悪い…おいで」 頬に触れられて、目の前の壁を呆然と見つめると壁はニコリと笑った。 昔歩夢と一緒に眺めていた絵本から飛び出てきたような完璧な王子様がそこにいた。 腕を引かれて、何処に連れていくのか不審だったが今の俺は自暴自棄になっていて何でもよく思った。 この近くに王子のような奴が住みそうな場所があっただろうか、こんな庶民的な住宅街に… そう思っていたら、一瞬だけ瞬きしたら俺の目の前の景色が変わった。 あれ…疲れてるのかな…目の前に立派な噴水が流れる庭園があるんだけど… しかも雨が降っていた筈なのに、いつの間にか止んでいた。 庭園に咲く小さな花を眺めながら、かなり疲れていたんだなと頭を抱えた。 こんな場所近所にあったか疑問だが、王子に腕を引かれるままに歩き出した。 「最初に身体を温めよう」 「…え、見ず知らずの人にそんな事…」 「気にしないで、君に興味があるだけだから」 興味…?なんだそれは、俺が雨の中佇んでいたから興味があるのか? 確かになんでだろうとは思うが、家に上がらせるだろうか…怪しいと思わないのか? 金持ちの考えている事は庶民には分からないって事か。 噴水を抜けて、大きな扉の前にやってきた…こんな扉テレビや漫画でしか見た事ねぇな。 王子がゆっくりと開けると、大きな音を立てて扉が開いた。 そして俺達を出迎えたのは、大勢の使用人達で道を作っていた。 「おかえりなさいませ」 「ただいま、彼はお客さんで雨で身体が冷えてしまっている…すぐに湯の用意をしてくれ」 「かしこまりました」 近くにいた使用人に王子がそう言うと頭を下げて、急いで走って何処かに向かった。 使用人を追いかけるように俺も王子に腕を引かれて歩き出した。 ドアを開けると、メイド服を着た可愛い女の子が二人いた。 ここは何の部屋か王子に聞こうとしたら、両腕を掴まれて女の子に迫られている。 可愛いけど怖い…と怯えていると、カバンを取られて上着を脱がされた。 そんな経験がない俺は情けない声を出して叫んでいた。 「なっ、なな…何をするんですか!?」 「何って…」 「濡れたお洋服のままお風呂に入れませんわ」 「ふ、風呂っ…俺、風呂入るのか!?」 「あぁ、説明していなかったね…湯で身体を温めないと風邪を引いてしまうよ」 王子もメイド達もニコニコ笑っていて、怖くて顔を引きつらせていた。 やっぱり帰ると言いづらい雰囲気で、女の子に裸を見られるのは恥ずかしくて席を外してくれるように王子に頼んだ。 生娘じゃないが、着替えくらい自分で出来る…さすがにメイド達も見ず知らずの俺の世話なんかしたくないだろ。 王子は頷いて、メイド達を下がらせて脱衣場には俺と王子しか居なくなった。 なんで王子が残っているのか疑問だ、王子も一緒に風呂に入るのか? ここは王子の家だし、男同士なら恥ずかしくはないが…俺の肩に手を乗せている王子に嫌な予感がする。 「では僕が脱がせよう」 「いやいやいやいやなんでそうなる!?」 「僕に脱がせてほしくて二人っきりになりたかったのではないのか?」 「一人で脱げるって意味なんだけど!!」 当たってほしくない嫌な予感が当たってしまい、俺は王子から距離を取る。 なんで誤解を招くような事を言うんだ!?二人っきりになりたいわけじゃなく、どっちかって言うと一人にしてほしいんだけど… 「遠慮するな」とジリジリと距離を縮めてくる王子に逃げ回っていたら壁に背中がくっ付いて行き場がなくなった。 「痛くはないから僕に身を任せてくれ」 「いや、本当に一人で…」 「僕の客人だ、この家の主になった気でいればいい」 それは物凄く荷が重いんだけど、俺の隙をついて後ろから抱きしめられた。 手を回して、ネクタイとボタンを一つ一つゆっくり確かめながら外す王子のやらしい手つきに俺は早く終われとだけ思った。 自分でもボタンを外そうとしたが、王子に何故か俺の手を握り外された。 意地でも自分で脱がしたいってわけか、なんだそれ…王子の変な趣味か? シャツのボタンを全て外されると、隙間から王子の手が入ってきた。 それは違くないか!?と王子の腕を掴むが「脱がすだけだよ」と妙な色気がある声で言われて疑いの眼差しで王子を見つめた。 クスリと笑った王子はそのまま中から肩に手を差し込んでシャツを脱がされた。 普通に脱がせないのかと、シャツ一つで物凄く疲れた。 次は下だとベルトに手を掛けられて慌てて自分でベルトを外した。 あんな羞恥心をもう一度味わいたくはない!今度は止められる前にズボンと下着を一気に下ろした。 「ふふっ、残念」 「…な、なにが?」 「何でもないよ、先に入っててくれ…僕もすぐに行く」 王子にそう言われてタオルを貸してもらい、腰に巻いて風呂場の扉を開けた。 さすが金持ちの風呂だ、修学旅行で行った旅館の風呂並にデカい。 身体をお湯で軽く濡らしてから足を入れると、冷えた身体が暖かくなる。 ゆっくり肩まで浸かると、つい小さな声が出てしまう。 湯船に入ったのはどのくらいぶりだろうか、最近はシャワーだけで終わらせていたから… 一気に疲れが出てきて、もう何もしたくないなと目蓋を閉じた。 「寝ちゃダメだよ」 「…あ、ごめんなさい」 王子の声が聞こえて目を開けて、後ろを振り返った。 俺とは違い、タオルを一切していないフルオープンの王子がにこやかに立っていた。 俺は自分でも筋肉がある方だと思っていたが、うっすらとした筋肉だ。 しかし、目の前の王子は着痩せするタイプなのか美しい筋肉がついている肉体美だった。

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