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第4話

何となく自分の裸を隠すように前屈みになってると、隣に王子が座った。 王子は見るかぎり日本人じゃないから身体のつくりが違うんだ、そう思っていよう。 王子が俺の方を見てニコニコ笑っているから気まづい。 俺の身体を見て貧相だと笑っている訳ではないとは思うが… こう何にもする事がないとついつい歩夢の事を考えてしまう。 歩夢、今何してるだろうか…今の時間ならまだ風呂は入っていないかな。 「なにか食べたいものは?」 「…え、肉」 「分かった、用意させよう…肉料理なら何でもいいのかい?」 「いやいや!さすがにそこまでは!」 「僕の自己満足だから気にしないでくれ」 自己満足で食事の世話をするのかこの人は…お人好しにもほどがあるだろ。 突然質問されたから今一番食いたいものをとっさに言ってしまった。 珍妙な肉じゃなきゃ何でもいいけど、俺はただ雨に濡れていただけでここまでされる事はしていない。 あまり長湯はのぼせてしまうと王子に連れられて湯船から上がる。 湯上りの世話も王子がしたいらしく、脱衣場に置いていた乾いたタオルを取り出した。 身体は自分で拭けると言っても聞かない事ぐらいこの短時間で分かった。 前の大事な部分は手で隠していると、足から腰…腕と丁寧に拭かれた。 最後の仕上げだと髪を拭かれて、何だか子供に戻ったような気分だった。 「おしまい」 「ありがとう…」 「ふふっ、それじゃあ夕食を作るから先に僕の部屋で待っててくれるかな」 「えっ!?今から作るのか!?」 「少し遅くなるかもしれないが、頑張るよ」 「だったら俺が!」 服は王子のワイシャツと、少しぶかぶかのズボンを借りた。 そして、俺は王子に頼んで台所を借りる事になった。 何でもやらせるわけにはいかないからな、俺もお礼がしたい。 両親が共働きで歩夢は家事が出来ないからいつも俺が食事を作ってあげている。 だから料理は得意な方だ、食えるくらいには作れる王子の味の好みは分からないが… 食堂まで王子に案内してもらい、広い食堂にやってきた。 どんだけ大家族なんだよと言いたいほどにテーブルが縦長だ。 何もかもが豪華すぎて、俺と住む世界が違いすぎて今一緒にいるのが不思議なくらいだ。 王子は厨房に滅多に入らないそうで、厨房の事をよく知らないと専属のシェフの一人が一緒に厨房に入ってきた。 調味料を見ると、見た事がない調味料で英語のような文字が書かれていた。 でも英語ではないから頑張って読もうとしてもダメだった。 シェフに聞いても知らない名前の調味料で、何故か塩とか砂糖とかなかった。 仕方ない、少し舐めて味を手探りで確認しながら作るしかないか。 ペロッと一口舐めるとちょっとしょっぱかった…味はちょっと薄目だが、これは塩だろうな。 一通り使う調味料の味を確認して、料理を作る事にした。 肉は俺の知ってる鳥や豚や牛があって良かった、今日はオムライスにしようかな。 歩夢が好きだったオムライス、いつもこれを作ると嬉しそうに食べてくれたんだよな。 野菜を切りながらシェフも手伝ってくれると言ってくれて、鶏肉の下ごしらえを頼んだ。 そして、ケチャップがなかったからどうしようと思ったが似たようなものがあったから代用した。 ケチャップみたいな酸味と甘みがあったが何故か白いケチャップもどきをかけて綺麗な半月の黄色いオムライスが完成した。 ケチャップというより、マヨネーズみたいだな…マヨネーズも美味しいけど… トレイに二人分のオムライスが乗った皿を乗せて、食堂に戻ってきた。 椅子に座っていた王子は俺が来ると、にこやかに手を振っていた。 「おまたせしました」 「使用人以外の料理を食べるのは初めてなんだ、楽しみだな」 「庶民的な料理だからあまり期待しない方がいいですよ」 とはいえ、俺の料理を期待されるのは嫌な気はしない。 王子の前にオムライスを運ぶと目を輝かせた無邪気な顔で「これはなんだ?」と聞いてきた。 いくら庶民的な料理とはいえオムライスを知らないとかあるのか? それとも白いオムライスだからか?白いオムライスもあると思うけど… 「オムライスです」 「おむらいす?これがいつも君が食べているものか?」 「いつもではないけど、まぁ…」 「いただきます」 オムライスを一口口に入れるのをドキドキしながらジッと見つめる。 喉が動いて、俺の方を見て「おいしいよ」と美しく微笑んだ。 ホッと胸を撫で下ろして、俺も食べようと王子の向かい側に座ろうと移動した。 しかし王子にすぐさま腕を引かれて隣に座らされた。 隣同士で食事をする、なんか今日会ったばかりなのに友人みたいな事ばかりしているな。 食事が終わり、食器を片してから王子の部屋に案内された。 廊下を歩いていて、すれ違う使用人達が皆俺達に挨拶してきてつられて俺も頭を下げた。 王子の部屋は俺の部屋の二倍の広さもあり、ソワソワと周りを見渡した。 「さてと、腹も膨れた事だし…話せる範囲でいいから聞かせて欲しい、何故あんなところで濡れていたんだ?」 王子と隣同士でソファーに座り、王子がここまでしてくれた本題を口にした。 大した理由ではないし、他人に話すには情けなくて恥ずかしい話だ。 言うほどの内容ではないが、言ってどうなる事もない。 俺には可愛い弟がいるという事から弟が海外に行ってしまった事まで話した。 初対面なのに王子の相づちが気持ちよくて、つい全て話してしまった。 話せば話すほど歩夢に会いたくなってきた、ちゃんとご飯食べてるのかな。 「君は弟が大好きなんだな、見知らぬ場所で暮らす兄弟を心配するのも何となく分かる…しかし君の顔色が悪くなるほどなのか?」 「俺の弟は天使なんだ!もし悪い奴に拐かされたら…俺は…俺は…」 使用人が部屋に運んでくれたであろうカバンからスマホを取り出して可愛い弟の写真を見せた。 王子はその写真を見て、驚いたような顔をしていた。 笑っている顔以外見た事がなくて、新鮮な気持ちになったがすぐにスマホを背中に隠した。 歩夢の可愛い顔を見て、王子が好きになったらどうするんだ! ちょっと気が緩んでいた、王子とはいえ弟の前だと油断出来ない。 「惚れるなよ」と警戒心むき出しで言うと、王子は再びにこやかに笑った。 だんだん王子のその笑顔が胡散臭いものに見えてきた。 「惚れないよ、僕は一途だから」 一途?王子に他に好きな人がいるって事か?でも歩夢の魅力を前にどんな恋人も霞むだろうし… まだ警戒していると、王子の笑みが苦笑いに変わった。 「見た事がある顔だったからね」とさらりと王子が言って今度は俺が驚いた。 歩夢を知ってる?こんな天使の姿の歩夢と瓜二つの人物なんてこの世にはいない。 日本人ではないとは思ってはいないが、まさか歩夢が行った外国に行った事があるのか? 歩夢の事が少しでも知りたくて、王子に身を乗り出すと押し倒すかたちになった。 「歩夢を何処で見たんだ!?」 「ん?…僕の通ってる学園で見かけてね、話した事はないけど」 王子の手が腰を撫でているのが気になるが、歩夢を学園で見たって事は同じ学園に通ってるって事か? だとしたら王子に場所を聞けば歩夢に会えるかもしれない。 ……いや、まだ歩夢は俺に対して怒ってるかもしれない…会わずに様子を見るだけにしとこう。 王子が学園に通っているなら、ここから通えるほど近い国なのかもしれない。 だって、西洋風の城だけどここは日本の筈だからな。 ただ、一目だけでいい…楽しそうに馴染んでいる歩夢が見たい。 「歩夢に、一度だけで…遠目でいいから会いたい」 「遠目だけでいいのかい?」 「…歩夢の生活を邪魔したくない」 本当は一声掛けたいけど、歩夢は俺なんかと会いたくはないだろ。 王子はなにか考え事をしている、なんだ?会わせるのは難しいのか? 交通費は俺の貯めていた小遣いで出すから案内だけ頼みたいんだが… 王子にそう言うと「そういう心配ではない」と王子は言った。 王子が通ってるなら大した手間でもないと思うけど… せっかくの歩夢を知る人物と会ったのに、また歩夢から遠ざかってしまうのか。 「彼、学園で大変な事になっているって噂を聞いたけど」 「えっ!?」 俺が思っていた事とは全然違くて、衝撃的な言葉だった。 王子に話を詳しく聞きたい、歩夢が今どういう状況なのか。

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