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第2話
メイド喫茶とリンは、光輝に学業と勤労のモチベーションを強く与えた。
夏休みに初めて来店してから、光輝は毎月通うことにした。接客は指名できたので、もちろんリンをリピートで指名した。
2度目に来店したとき、リンは光輝の名前を呼んでくれた。一カ月まえに一度来たきりだ。名前を覚えているとは思わず、光輝は驚いた。綺麗な容姿だけでなく、接客業としてのプロ意識にも惹かれてしまう。
光輝は、彼女に貢ぎまくる友人の気持ちが初めて理解できた。彼女ではなく、メイドなのが情けないところだが。
講義が始まる前の教室で、光輝は弁当を食べていた。
節約のために始めた料理だが、この頃は楽しくて趣味になっている。
前の座席から後ろ向きに身を乗り出した友人、沖がニヤニヤしながら言う。
「鹿島、彼女でもできた?」
「え、できてないけど。なんで?」
思い当たる節が全くない。
「だってお前、最近めちゃくちゃバイトしてる割に、付き合い悪いし。それに、これだよ」
沖は弁当箱を指差す。
「自分で作ったって」
「いや、自分で食うためだけに、そんな作るかフツー」
確かに、とも思う。
自分が食べる分だけ作ってると、虚しい気持ちになることもある。
「まあ、でも趣味だよ。お前もやってみたら。案外楽しいよ」
「いいかも。彼女に飯作ったら喜ぶかな」
「喜ぶ、喜ぶ。びっくりするって」
「そうかな」
満更でもないようだった。沖は早速、スマホでレシピサイトを検索している。
光輝の彼女疑惑があっさり流されてくれてほっとする。深く聞かれなくてよかった。メイドに貢いでいます、なんてとても言えない。
光輝には今、恋人はいない。
高校時代に少しだけ女性と付き合ったことがあるが、あまり興味が持てずに自然消滅してしまった。それからは一度も彼女ができていない。
迷わず女性が好きだとはいえない。
かといって男性が好きかというと、それも違う気がする。
まだ、どちらの性の人間も好きになったことがないから分からないのだ。あえていえば、光輝の性対象は女装した男性だ。そういう動画や画像は男の娘モノが好きだし、興奮する。
しかし、男の娘と恋人になりたいという感覚はない。あくまで画面の向こう側、夢の中の住民のようなものだからこそ興奮できる。
誰かと深い恋愛関係になるのを避けているだけだ。そう思うときもある。
本当は沖のように、きちんと女性とお付き合いして、対等な関係を築いた方がいい。なんなら相手は男性でもいい。
メイドに夢中になることは、現実逃避だ。
分かってはいるが、今はこのままでいいのだ。とりあえず大学生のうちは。
いずれ相応しい時が来たら、自分も誰かを好きになったり、恋人が欲しいと思ったりするようになるだろうから。
「鹿島に彼女ができたら、美味い飯を作ってやれていいな」
「え? ああ、うん」
沖の言葉に、ふわふわしていた思考が現実に戻される。
時計をみると、話しているうちに講義の開始時間ぎ近づいていた。間に合わせるように、急いで弁当を口に運ぶ。
自分に彼女がいて、彼女のために料理を作る風景は、うまく想像できなかった。
そうしてバイトに明け暮れながら、月に一回メイド喫茶に通う日々が、淡々と過ぎていった。
光輝が大学生として過ごす3回目の春が、あっという間にやってくる。
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