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03a マクスウェル空軍基地 *
自分の物とは思えないほど、淫らに濡れた声だった。いっぱいに満たされる安堵のようなものを感じて、口で喘ぐように息を継ぐ。最奥まで暴かれた秘所はすっかり受け入れることを覚えて、熱い滾りが与えられたり、お預けされたりする度に甘い痺れが腰に広がる。
「っ……あぅ……ッんん!」
知らないうちに、脚がシグルズの胴にぎゅっと巻き付いてしまっていた。そんなつもりはないのに、まるで挿入を止められたくないかのようで、はしたなさに愕然とする。
「いい声になってきたじゃないか?」
「ふ……ぁ、違……」
目隠しされて見えなくとも、声の調子で嘲笑されたと分かる。
シグルズの指が前の屹立に触れる。そこはしとどに濡れているのに、再び固さを取り戻していた。先ほど放った自分のものと、その後の先走りの蜜とが混ざり合い、耳を塞ぎたくなるようなグチュグチュという水音が上がる。あの長く綺麗な指を汚しながら、わざと泡立つくらいに激しく世話をされているのだと想像してしまうと、ますますそこを膨らませてしまった。
「……っ……」
下腹部に沸き上がってきたのは、熱くて切ない衝動だった。後ろで柔らかく喰い締めている分、このまま高められてしまったら意識がバラバラに砕けてしまうのではないかと、イェークは力なくかぶりを振って許しを請う。自分だけ視覚を奪われ一方的に蹂躙されているというのに、身体の方はすっかりその気になって暴走している。否定したくて、シーツの上で震え、首を仰け反らせる。
「違う……っン……」
「感じているのか? 好きなように腰を振ってみろ。上手く強請れれば終わらせてやる」
「や、やだ……っ、やだぁ……」
ただでさえいっぱいまで受け入れさせられているというのに、イェークの意思を離れて肢体は高まっていく。僅かな身じろぎからさえ快楽を追うことを覚え、そこでめいいっぱいシグルズの熱棒を頬張り、味わい尽くすように大胆に動いてしまう。
「やだ……や、ぁ……っ……奥……ほしい……」
口から零れ落ちた言葉の意味も分からないまま、イェークは肩で息を継ぐ。シグルズがぐっと身体を伏せ、覆い被さってくる。耳元に唇を寄せて、尋問される。
「どこに?」
囁くような掠れた低音で、耳から首筋までじんと痺れた。
「奥……もっと奥の……っ、いいとこ、狭くて熱いとこ……早、く……」
さらりと胸を撫でられただけで、そこがひりひりと熱さを訴える。視界が塞がれているせいか、皮膚が敏感になったように感じる。
「何がほしい?」
「……っ……熱いの……く、下さい……奥……押し付けてぇ……」
自分が何を口走っているのか、わけも分からず夢中で懇願した。嘲笑が耳にかかる。
「嫌じゃなかったのか?」
「だって、これ……っ、もう……駄目、許してぇ……もう壊れちゃ……っく……ふ……」
極めてしまうその直前でぎゅっと前の花芯の根元を握られ、熱い奔流が堰き止められてしまう。あまりに強い快感がつらくて、涙を流してしゃくり上げてしまう。
「泣くほどいいのか」
目隠しのネクタイの下から零れた涙滴を、舌で舐め取られる。それさえにも感じ入って、無意識にこくこくと頷いていた。
「ちゃんと言葉にして言え」
ぎゅうっと根元に力を込められ、本能的な恐怖と苦痛を感じる。なのに後ろでは咥えさせられたままの肉棒を嬉しそうに迎え入れ、そこで脈打つような鼓動を感じるほど味わい尽くす。
「き、気持ちいい……です……」
そう口に出した瞬間、何かが壊れる音がした。男としての自覚か、一人分の人格か、形の見えないものが崩壊してしまった。それとも、そんなものは始めからなかったのか……だが確かなのは、自分は今この体躯を支配する絶対的な快楽に降伏してしまったということだった。逆らえないし、逃れることも出来ない。霞んでいく意識が鳴らす警鐘の方がむしろ邪魔になっていく。
「お前は抱かれて悦んでいるか?」
「は……はい……悦んで、ます……」
「……いいだろう。許可する」
その瞬間、目隠しが外され部屋の明かりが一気に網膜に飛び込んで来た。眩しさで一度目を閉じたが、慣れてくるに従って、目の前に覆い被さった男の瞳が目に入る。
「ぁ……」
シグルズの深い青の目は冷静だった。イェークが涙ながらに行為の先をねだる様を、冷たく見下ろしていた。自分と男とのギャップに、冷水を浴びせられた心地になる。
遅れて自分の口走っていたことを理解し、驚愕する。快楽に支配され、正体を無くしたように甘い声を上げていたのは、紛れも無く自分だったのだ。
呆然と硬直したイェークの腰を、シグルズは少し身体を起こして両腕で軽々と抱え上げた。そして二度、三度と最奥を激しく突き上げる。それと同時に根元を解放され、ずっと焦らされていた身体はひとたまりもなかった。
「あっ……あァ――――……!!」
背中を弓なりに反らせて、身を捩って達する。絶頂がいつまでも続き、精液が何度も腹に散った。
目隠しを剥ぎ取られた素顔をじっと覗かれながら、イェークは噛み殺すことが出来ずに嬌声を上げ続けた。やがて頭上の男が小さく息を詰め、尻の奥に熱い飛沫を感じる。
「っん……」
ずるりと熱い杭が引き抜かれ、イェークはまた背筋を震わせる。途端に、視界からすうっと色彩が抜けていく。一気に血圧が下がっていく……どこか他人事のようにそう思った時には、もう意識は闇の中に沈んでいた。
くぐもったエンジン音と振動、それに唇に柔らかいものが触れた感じがあり、イェークはうっすらと瞼を開けた。いつの間にか頭を撫でていた大きな手が離れていく。
視界には白い天井があった。内側に湾曲した形の壁、そこに等間隔に開いた小窓からは、眩しい白い光が差している。そのまま部屋を見渡すと、身なりを整えているシグルズがいた。一方、自分はというと、薄手のシーツをかぶってはいるものの、上半身は大きくはだけていて、下半身に至っては何も身に付けていなかった。昨晩の出来事を思い出し、明るいはずの室内で一気に目の前が暗くなる。
では、さっき唇に触れたのは……と思い、思わず唇を拭ってしまう。無駄な抵抗だと内心思いながらも、反射的にそうしてしまっていた。けれど、あれだけ泣いて抵抗して汚れた顔も身体も、拭われたか何かで清められたようだった。あんまりな姿では連れ歩けないからだろう。
(そうか……俺は、囲われてしまったんだ……)
それを教え込まれたのだ、一晩かけて。嫌でも理解した。
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