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14b 喜びの服従 *

 部屋に戻ると何が起こるのか、さすがに鈍いイェークも理解していた。二人が部屋に入り、電子キーがかかる音がした直後、玄関で立ったまま後ろから抱き締められた。首筋に舌が這い、ちくりと痛みが走るほど吸い付かれる。 「シグルズ……せめて、ベッドで……」  言い終わるや否や横抱きにされ、身体が浮く。足が地についていない感覚に心許なさを覚えるがそれも一瞬で、下ろされたのはイェークの望み通りベッドの上だった。覆い被さるようにのしかかられ、歯がぶつかるほど勢いに任せて深く口付けられる。  部屋は朝と同じ状態だった。遮光カーテンが引かれて照明は落とされ、薄暗い。お互いの顔は、目を凝らしてようやくぼんやりと表情が分かる程度だ。 「やっと手に入れた……。俺のものだ……」  息が上がるほどの口付けの合間に、シグルズが囁く。何だか今更のように思った。イェークが寝食を忘れて試験勉強に打ち込んだのは、試験で一位を取るためだった。それは全て、シグルズのものになるためにそうする必要があったからだ。 「そうだな……。俺は、あんたのものになったんだ……」  試験で結果を出したその時に、自分は心身ともにこの人の所有物になるのだと思っていた。けれど、本当はもっと前から、それを望んでいた。そうなりたかったからこそ、イェークは回答を書き終えてペンを置くまで、本気で試練に臨んだ。  じっとシグルズの顔を見上げ、自分からもその広い背中に手を回し、脚を絡めて誘う。 「俺は、あんたのものだよ……」  少々手荒に衣服を脱がされるのも、不思議と以前のようには怖いと思わなかった。あっという間に全裸に剥かれ、肌寒さと羞恥を覚える。男のくせに胸を隠すのはおかしいような気がして、軽く唇を噛んで後ろ手にシーツを掴む。  シグルズはそんなイェークの胸から腹へ大きな手のひらで撫で下ろし、その先の下腹部に触れる。長い指でそれを包み込まれ、ゆるゆると扱かれる。 「っは……」  性感を覚えるよりも先に多幸感が沸き上がり、イェークは喉を反らして熱い息を吐く。やがてそこからは水音が上がり始め、身体も「そのつもり」になっていることを知る。自然と膝が立って、内腿に力を入れていないとシーツを蹴ってしまいそうだった。 「んん……っふ……」  鼻から抜けるような声が漏れそうになって、慌てて口を押さえる。まるで甘えているかのような声色に、内心動揺してしまった。  シグルズがその手を掴んで退けて、代わりに自分の指を口の中に割り込ませた。 「んぐ、……」  最初は中指と人差し指。シグルズの指は長いので、無理に差し込まれるとえずいてしまいそうだった。上顎の奥、喉の入り口に爪が当たると、思わず顔をしかめてしまう。けれどなるべく歯を立てないように、辛いところに当たらないように舌で誘導しながら、なるべく奥まで誘い入れる。  ああ、この指を挿入されるのだなと思いながら、イェークは懸命に舌を絡めた。自分からシグルズの手首を捕まえて、角度を変えながら何度も吸い付いた。吐き出す時にはちゅ、ちゅ、と音を立てて、指の腹の部分にも丁寧に舌を這わせて、また二本の指を根元まで飲み込む。  そこに薬指が加わって、歯を当てずに口の中に収めているのが苦しくなる。眉根を寄せながらも、イェークはそれを受け入れ続けた。三本の指に十分に唾液が絡まって濡れそぼった頃、イェークの唇はようやく解放された。  その先に待っていることは分かっていたので、立てた膝を僅かに開いてシグルズの指を迎える。入り口をつつくように慣らされた後、身体の奥へ、そっと挿し込まれた。 「うン……、シグルズ……」  ずるりと内部へ入り込む瞬間は、本能的な違和感で身体が竦んでしまう。しかし、以前を思い出しながら浅く呼吸をしていると、だんだん内壁が緩んできたようだ。周辺をあやすように撫でられていると、あの感覚がぞくぞくとせり上がってくる。ある一点に触れられた時、きゅうっとその指を引き絞ってしまう。 「あぅ……っ」 「ここだな」  掠れたバリトンが耳元で囁く。イェークが頷かなくても、もう反応で彼は察するようになってしまったようだ。挿入する指を増やし、衝撃にイェークが息を詰めるのもお構いなしにそこへ触れ、擦り上げる。 「ひ、っ……ま、待って……あ、ああ……!」  力任せとも言っていいくらいに、そこばかりを刺激される。びくびくと腰が不随意に跳ね、頭の下の枕を掴んで耐え忍ぶ。  イェークの内腿を掴んでいたもう片方の手が離れ、前のそそり立ったものに伸ばされる。茎全体を、先走りのぬめりを広げるように扱き上げられ、再びいやらしい水音が部屋に響いてしまう。その間も後ろへの激しい愛撫は止まず、前から溢れた愛液が滴って指の通りが良くなっていく。 「あ、あ、あァ……! ン、そこ、それ……っ」  二点を同時に責められて、イェークは背中を浮かせてかぶりを振った。時折先端の敏感な部分を強く握り込まれ、息が止まるほどの強すぎる悦楽をただ甘受する。 「俺、あっあ……も、イッちゃ……」 「駄目だ……。まだイくな」  息も絶え絶えに限界を訴えるイェークに対し、シグルズは抑揚を抑えた声でそう告げ、淫らにひくつく肉壁をそっと撫でてから、じれったいほどゆっくりと指を引き抜いた。 「っ~~…………」  高まった身体を急に放り出されるのは辛く、イェークは自分の身体を抱いて震えながら後ろ手にシーツに縋った。けれど視線だけは、シグルズに向けていた。さらなる快楽への期待が抑えきれなかった。  彼もまた衣服を脱ぎ捨て、鍛え上げられた身体を顕わにした。その中心では、固くなったものが天井を向いている。 「あ……」  喉の渇きを覚えて、唾を飲み込む。同時に、ひくりと入り口が反応してしまった。 「挿入るぞ」 「ひ、くぁ……!」

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