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17b 別世界の人々

 シグルズは服が必要だと言ったので、イェークはその日の訓練後には服屋に連れて行かれるのだろうと心積もりをしていた。しかし実際は逆だった。服屋の方が、シグルズとイェークの部屋へやって来た。  なんとかという店名だかブランド名だかを名乗った男が、台車に載せて来た箱の中からたくさんの生地の見本を取り出していく。 「こいつの髪の色に合う生地を適当に選べ」  そう言ったシグルズも手ずから生地の見本を広げてはイェークの肩に当てて選び始めた。イェークはそれまで古着くらいしか買って着たことがなかったので、服の良し悪しは分からない。だからシグルズと並んでおかしくないもの、という注文だけをして、後はシグルズと服屋の男に任せることにした。  生地は光沢の少ない漆黒で、目立たないストライプが入っているものに決まった。イェークの銀髪が映えるとのことで、シグルズが決めてくれた。スーツの形も、シグルズのものと同系統で作られることになった。  男は最後にメジャーを取り出して、イェークの胸囲、腕や脚の長さを測っては情報端末に数字を打ち込んでいった。何故かシグルズはその間、眉間に皺を寄せ続けていた。  パーティーの前の日までに仕立てて配達する旨を約束して、男は再び大きな箱をたくさん台車に乗せて去って行った。 「……あのさ、値段聞いてなくないか」 「知らん、どうせ実家へのツケだ」 「い、いいのかそんなんで」 「そんなことより……」  シグルズは腕組みをして、イェークを見下ろす。どこか苛々しているようだ。 「何だよ?」 「ホイホイ他の男に触れさせるな」 「……」  何のことかと自分の身体を見下ろし、直前の出来事のことかと思い至る。 「採寸のことを言ってるのか?」 「お前には自覚が足りん。分からせてやるしかないようだな」  腕を掴まれてベッドへ引っ張られる。 「え? 何の自覚だよ、ちゃんとじっとしてたじゃないかよ」 「それがだめだ」 「えええナンデ?」  純粋に疑問符ばかりになったのだが、シグルズの溜飲はどうしても下がらないらしい。  イェークはベッドの上に組み敷かれ、服を剥がれると、身体中に痛いほどきつく吸い付かれてしまった。翌朝見てみると、それらは無数のキスマークとなっていて、イェークは困惑と羞恥と、色々が混ざった複雑な気分で頬を染めた。  短納期すぎてでたらめじゃないのかと半分疑っていたのだが、パーティーの前日の夜、本当にイェークのスーツは部屋まで届けられた。  袖を通してみると、確かにサイズも合っているし、生地もシグルズと選んだものだ。  スーツの出来に対して、シグルズは「いいんじゃないか」とだけ言ったが、しばらくの間じっと後ろから見つめられた。  シグルズの性格から言って、気になることがあるなら即座に返品しそうなものだが、そうではないようなので逆にとても気に入ったのかも知れない。イェークにとっても、彼が選んでくれたものなら文句はなかった。  翌日の朝は早速そのスーツで正装をして、シグルズの後ろにくっついて外泊届けを提出した。その足で基地の正門までやって来て初めて、自分がワシルトラス州に連れて来られてから初めて基地の外に出るのだと気付く。来客を迎えるロータリーには黒いリムジンが止まっていて、側には同じく正装をしたシンフィーとカイが待っていた。二人とも揃いの黒のスーツで、普段とは見違えるほど雰囲気が大人びている。しかし中身の方は、いつもの二人だった。 「おはよーイェーク!」  カイは大きく手を振ってイェークを迎えてくれた。 「その服、新しく作ったんだね、かっこいいよ!」 「ありがとう。そう言うカイも、軍服じゃないんだな?」 「あはは、まあね。イェークは式典用の軍服が間に合わないって、事前に聞いてたからさ」 「あ、俺に合わせてくれたのか。ありがとう」  カイもシンフィーも、気にするなと言うように微笑んで、車へ乗り込もうと後部座席へ向き直る。 「すごいなぁ、随分長い車だなあ」  そう言いながら、イェークは左前方の運転席へ向かう。 「あのさ、道は分からないから、ちゃんとナビ設定してくれよな?」 「……」 「……」  カイもシンフィーもきょとんとした顔をして黙ってしまった。 「え?」  珍しく血相を変えたシグルズが飛んで来て、首根っこを掴まれる。 「お前は後ろだ!」

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